書籍

免疫性神経疾患ハンドブック

編集 : 楠進
ISBN : 978-4-524-26998-3
発行年月 : 2013年6月
判型 : B5
ページ数 : 358

在庫僅少

定価10,800円(本体10,000円 + 税)


正誤表

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

近年増加傾向にある免疫性神経疾患の最新の臨床実績と研究成果を、本領域の第一人者らが詳しく解説。多発性硬化症からGuillain-Barre症候群、重症筋無力症など幅広くカバー。各疾患について、臨床疫学、神経学的所見、病理・発生機序から血清学的所見、診断、治療までを網羅し、すぐに役立つ診療のエッセンスを満載。“神経難病”を診療する神経内科医必読の一冊。

第I章 総論
A 免疫性神経疾患と細胞性免疫
 1.免疫性神経疾患の理解に役立つ免疫学
 2.免疫性神経疾患と細胞性免疫
B 免疫性神経疾患と液性免疫
 1.自己抗体
 2.補体とサイトカイン
C 血液脳関門と血液神経関門
 1.BBB、BNBの解剖学
 2.BBB、BNBの機能分子
 3.自己免疫性神経疾患でのBBB、BNB破綻機序
 4.BBB、BNBをターゲットとした新規治療法開発へ
D 免疫性神経疾患の発症要因
 1.遺伝要因
 2.感染因子
 3.環境因子
E 免疫性神経疾患の電気生理学
 1.EPS
 2.脱髄の生理学
F 免疫性神経疾患の動物モデル
 1.多発性硬化症モデル
 2.末梢神経炎モデル
 3.重症筋無力症モデル
 4.多発筋炎モデル
G 免疫性神経疾患治療の考え方
 1.治療の概論と胸腺摘出
 2.MSの治療はウイルス説から始まった
 3.免疫抑制療法の流れ
 4.経口トレランス、MBPのaltered peptide ligand(APL)
 5.DNAワクチン療法、T細胞による免疫
 6.自己幹細胞移植
 7.分子標的療法
第II章 免疫性中枢神経疾患
A 多発性硬化症(MS)
 1.臨床疫学
 2.症状と神経学的所見
 3.病理と発症機序
 4.画像所見
 5.検査所見
 6.診断
 7.治療と予後
B 視神経脊髄炎(NMO)
 1.臨床疫学
 2.症状と神経学的所見
 3.病理と発症機序
 4.検査所見
 5.診断
 6.治療
C 急性散在性脳脊髄炎(ADEM)
 1.臨床疫学
 2.症状と神経学的所見
 3.病因と病態
 4.検査所見
 5.診断
 6.治療と予後
D 免疫性中枢神経疾患の鑑別診断
 1.病歴聴取と神経学的診察
 2.神経放射線学的アプローチ
 3.免疫学的検査によるアプローチ
 4.髄液検査によるアプローチ
第III章 免疫性末梢神経疾患
A Guillain-Barre症候群(GBS)とFisher症候群
 1.臨床疫学
 2.症状と神経学的所見
 3.病理と発症機序
 4.検査所見
 5.診断
 6.治療と予後
B 慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP)、多巣性運動ニューロパチー(MMN)とパラプロテイン血症を伴うニューロパチー
B-1 慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP)
 1.臨床疫学
 2.症状と神経学的所見
 3.病理と発症機序
 4.検査所見
 5.診断
 6.治療と予後
B-2 多巣性運動ニューロパチー(MMN)
 1.臨床疫学
 2.症状と神経学的所見
 3.病理と発症機序
 4.検査所見
 5.診断
 6.治療と予後
B-3 パラプロテイン血症を伴うニューロパチー
 1.臨床疫学
 2.症状と神経学的所見
 3.病理と発症機序
 4.検査所見
 5.診断
 6.治療と予後
C クロウ・深瀬(POEMS)症候群
 1.概念・臨床疫学
 2.症状と神経学的・内科的所見
 3.病態と発症機序
 4.検査所見
 5.診断
 6.治療と予後
D 免疫性末梢神経疾患の鑑別診断
 1.病歴、神経症候、検査所見に基づく鑑別
 2.各免疫性末梢神経疾患の鑑別診断
第IV章 免疫性筋疾患およびその他の免疫性神経疾患
A 重症筋無力症(MG)とLambert-Eaton筋無力症候群(LEMS)
A-1 重症筋無力症(MG)
 1.臨床疫学
 2.症状と神経学的所見
 3.検査所見
 4.診断
 5.成因
 6.治療と予後
A-2 Lambert-Eaton筋無力症候群(LEMS)
 1.臨床疫学
 2.症状と神経学的所見
 3.病理と発症機序
 4.検査所見
 5.治療と予後
B HTLV-1関連脊髄症(HAM)
 1.臨床疫学
 2.症状と神経学的所見
 3.病理と発症機序
 4.画像所見
 5.検査所見
 6.診断
 7.治療と予後
C 多発筋炎(PM)・皮膚筋炎(DM)・封入体筋炎(sIBM)
 1.臨床疫学
 2.症状と神経学的所見
 3.病理と発症機序
 4.画像所見
 5.検査所見
 6.診断
 7.治療と予後
D その他の免疫性神経疾患
 1.神経Behcet病と神経Sweet病
  1.神経Behcet病
  2.神経Sweet病
  3.診断
  4.治療
 2.膠原病に伴う神経障害
  1.SLE・CNSループス
  2.血管炎症候群・血管炎に伴う神経障害
 3.サルコイドーシスと神経障害
  1.臨床疫学
  2.症状と神経学的所見
  3.病理と発症機序
  4.画像所見
  5.検査所見
  6.診断
  7.治療と予後
 4.橋本脳症
  1.臨床疫学
  2.症状と神経学的所見
  3.病理と発症機序
  4.検査所見
  5.診断
  6.治療と予後
 5.傍腫瘍性神経症候群
  1.臨床疫学
  2.症状と神経学的所見
  3.検査所見と診断
  4.治療と予後
 6.Isaacs症候群とMorvan症候群
  1.臨床疫学
  2.症状と神経学的所見
  3.病理と発症機序
  4.検査所見
  5.診断
  6.治療と予後
 7.stiff-person症候群
  1.臨床疫学
  2.症状と神経学的所見
  3.病理と発症機序
  4.検査所見
  5.診断
  6.治療と予後
 8.自己免疫性脳炎・脳症
  1.臨床疫学
  2.症状と神経学的所見
  3.病理所見
  4.発症機序に関する検討
  5.診断
  6.治療と予後
第V章 神経変性疾患、脳血管障害における免疫のかかわり315
A 神経変性疾患と免疫
 1.神経系と免疫系
 2.神経変性疾患における神経炎症
 3.神経炎症におけるアストロサイトの役割
 4.神経炎症における神経保護機構
B 脳血管障害と免疫
 1.T細胞と脳梗塞
 2.TLRと脳梗塞
 3.免疫を利用した新たな脳梗塞治療の可能性
第VI章 免疫性神経疾患に対する新規治療薬の可能性
 1.新規開発薬
 2.すでに欧米で使用されている薬剤
索引

免疫性神経疾患とは、中枢および末梢神経、神経筋接合部および筋における、免疫性の病態により引き起こされる疾患である。中枢神経の免疫性疾患の代表としては、多発性硬化症および視神経脊髄炎がある。末梢神経疾患としては、急性単相性の経過をとるGuillain-Barre症候群と、慢性の経過をとる慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチーが主たる疾患であり、それぞれの亜型としてFisher症候群および多巣性運動ニューロパチーを挙げることができる。神経筋接合部疾患としては重症筋無力症がもっとも患者数が多い。以上に挙げた疾患は、自己免疫がその主たる病態と考えられている。一方、HTLV-1関連脊髄症、クロウ・深瀬(POEMS)症候群など、自己に対する免疫反応以外の病態が主であると考えられている疾患もある。
 わが国の医学研究は全体としてきわめて高いレベルにあるが、免疫性神経疾患研究においてはとくにそのことが顕著であるといってよいであろう。前述のどの疾患においても、わが国の研究が世界をリードしているといっても過言ではない。私は2008年以来、厚生労働省の難治性疾患克服研究事業における「免疫性神経疾患に関する調査研究」班の研究代表者を務めてきて、そのことを実感している。しかし一方で、免疫性神経疾患はその稀少性ゆえに、とっつきにくく十分な理解が得られていないという面もある。そこで、わが国の研究者が大いに貢献してきた免疫性神経疾患研究のこれまでの成果をまとめることと、免疫性神経疾患をわかりやすく紹介することの2つを目的として、このハンドブックを編集した。
 編集にあたっては、免疫性神経疾患の病態を理解するうえで重要である基礎的な側面に、総論として十分なスペースを割いた。また各論においては前述の代表的な疾患だけではなく、さらに稀少な疾患や、最近標的抗原が明らかとなった新しい概念の疾患も加えた。また、従来は免疫とは縁遠いと考えられてきた、神経変性疾患や脳血管障害の病態の免疫学的な側面も紹介することとした。
 多くの先生方のご協力により力作が集まり、「最新の研究成果をわかりやすく」という欲張った目標を達成できたのではないかと考えている。

2013年5月
楠進

「免疫性神経疾患ハンドブック」を読ませていただき、改めて神経免疫の領域が臨床と研究の両面で大きく発展していることを実感しました。「神経学」と「免疫学」を合わせた新しい学問領域の響きをもつ「神経免疫学(neuroimmunology)」の用語が盛んに使われだしたのが30〜40年前ころではないかと思います。ちょうどそのころは日本においては難病対策が始まり、多発性硬化症や重症筋無力症の調査研究班が立ち上がり、調査対象疾患が年々増えていった時代でした。そうしたなかに「免疫性神経疾患に関する調査研究班」は日本での神経免疫学を代表する研究グループとして成長してきた歴史があります。本書は、まさにその免疫性神経疾患調査研究班の現主任研究者である楠 進先生が編集され、班員の先生をはじめとしたわが国の多くの研究者の力を結集してまとめあげられた力作です。
 本書の特徴はいくつかあげられますが、そのもっとも大きな点は各々の免疫性神経疾患の分野において、その第一人者により最新の情報がまとめられていることです。これらは、疾患概念の確立に関わることであり、病態解明の研究成果でもあり、新たな診断技術や治療薬の進歩でもあります。
 それらのなかから、いくつかの最新の情報の例をあげさせていただきます。多発性硬化症においては、再発抑制薬をはじめとして新規の治療薬の導入が世界的レベルで進んでおり、日本においても経口薬のフィンゴリモドが導入され、さらにいくつかの新規治療薬が導入されようとしています。まさに多発性硬化症の再発がコントロールされる時代になったことを実感させられます。また、視神経脊髄炎は今まで多発性硬化症の一亜型と考えられていましたが、自己抗体のアクアポリン4(AQP4)抗体が発見されるとともに、その病態が脱髄とは異なるアストロサイトパチーであることが明らかにされてきました。これらの一連の病因病態研究はわが国にて先進的に行われ、疾患概念の確立が進んできた疾患であり、本書を読むことにて世界最先端の情報を知ることができます。
 末梢神経における免疫疾患の代表でもあるギラン・バレー症候群においては、その病因、病態、診断に重要なガングリオシド抗体に関する最新の情報が多く記載されています。なかでもGM1、GD1a、GalNc−GD1a、GM1b抗体と軸索障害型の病態との関連が明らかにされ、また、わが国において活発に研究されているガングリオシド複合体に対する抗体とその臨床病型の情報は大変有用なものであります。その他、わが国で約20年前に疾患概念が確立されたHTLV−1
 関連脊髄症(HAM)は、その臨床疫学、病態理解、診断、それに治療法に関する膨大な情報がほぼ整理統合されて記載されていて、隔世の感があります。
 本書のもう一つの特徴は、最初の章に総論として免疫性神経疾患の病因・病態の理解において重要な事項、たとえば神経免疫に必要な基礎免疫学、血液脳関門や血液神経関門の構造や機能、免疫神経疾患に関係する遺伝要因の関与や電気生理学的検査の理解などに関する最新の情報が、コンパクトにわかりやすくまとめられていることです。これをまず読んで各疾患の項目に進むと理解を助けることもできますし、また各疾患を勉強しているなかでの疑問点について、総論の記述に戻ることもできます。
 一般に、免疫性神経疾患を扱う神経免疫学は学問的に複雑な免疫学や神経学が関与した領域であるため、しばしば敬遠される向きがありますが、本書は大変明解にまとめてあるのも特徴と考えます。疾患ごとに疫学、神経症状、病理と発症機序、診断、治療という基本項目に則った記載がなされており、また疾患ごとに「診療のエッセンス」で概要がまとめてあり、またそれぞれの項目において「キーポイント」が簡明に記されていることが本書のわかりやすさに貢献しているものと考えます。ぜひとも、神経免疫学や免疫性神経疾患の専門家のみならず神経内科や免疫に興味のある方々に読んでいただきたいハンドブックです。

臨床雑誌内科113巻3号(2014年3月号)より転載
評者●国立精神・神経医療研究センター病院院長 糸山泰人