書籍

これでわかる認知症診療改訂第2版

かかりつけ医と研修医のために

こちらの商品は改訂版・新版がございます。

: 浦上克哉
ISBN : 978-4-524-26923-5
発行年月 : 2012年6月
判型 : A5
ページ数 : 144

在庫なし

定価2,860円(本体2,600円 + 税)

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

認知症を早期に発見するにはどうしたらよいか。治療薬の適切な処方と患者さんのコンプライアンスを保つにはどうしたらよいか。認知症診療の地域連携をどのようにしたらよいか。新薬の登場によって治療の選択肢が増えた認知症診療のノウハウをコンパクトにまとめた。高齢者の患者さんを多く診療するかかりつけ医とこれから直面する研修医の必読書。患者と家族への治療の説明にも有用な一冊。

1 認知症とは?
2 認知症の頻度
3 認知症診療の主役は「かかりつけ医」
 A.認知症診療の理想像
 B.対応力向上のために
4 認知症の早期発見のコツ
 A.家族や介護者から情報を得る
 B.コメディカルスタッフから情報を得る
 C.診察室で気づく
5 アルツハイマー型認知症の診断
 A.アルツハイマー型認知症の臨床的特徴
 B.かかりつけ医のための認知症簡易スクリーニング法
 C.タッチパネル式コンピューターを用いたスクリーニング機器
 D.かかりつけ医にできるアルツハイマー型認知症の簡易診断法
 E.診断に役立つ簡単な構成厚意の診かた
 F.アルツハイマー型認知症の典型的な画像所見
 G.認知症と鑑別を必要とする治療可能な疾患
 H.認知症診断の際に鑑別が必要な病態・疾患
 I.専門医が行っている診断基準に基づく診断
6 認知症の鑑別診断
 A.血管性認知症
 B.レビー小体型認知症
 C.前頭側頭型認知症
7 認知症の薬物療法
 A.中核症状への治療
 B.BPS
Dへの治療
8 認知症の告知と社会的諸問題
 A.告知の意義
 B.自動車運転について
9 家族へのアプローチ
10 専門医やケアスタッフとの連携
 A.専門医との連携
 B.ケアマネージャーとの連携
11 介護保険の主治医意見書の書き方
12 認知症検診および予防教室への取り組み
 A.検診と予防教室
 B.効果
 C.新たな試み
13 認知症診療の今後の展望
 A.根本治療薬
 B.診断マーカー
 C.今後への期待
付 Q&A

認知症の臨床、研究に携わって20数年が経過した。研究に着手した1980年代は認知症の診断法も確立していなかった。治療とは、まったくほど遠い時代であった。鳥取県大山町で認知症の疫学調査(鳥取大学脳神経内科)チームに加わり、認知症の実態把握を始めた。
 1980年当時は血管性認知症がアルツハイマー型認知症より多かったが、1990年代から比率が逆転しアルツハイマー型認知症が血管性認知症より多くなった。このころから、アルツハイマー型認知症の早期診断マーカー開発の研究に着手した。薬のない当時は、診断マーカー開発の研究には社会は冷やかであった。「薬もないのに診断してどうするの?」という感じであった。
 そして、アルツハイマー型認知症治療薬であるアリセプト(一般名:ドネペジル塩酸塩)が発売されて問題は大きく露呈した。せっかく発売されたアリセプトの処方がされないのである。多くのかかりつけ医がアルツハイマー型認知症の診断ができないのである。そこで、認知症専門医がかかりつけ医向けの認知症診療対応向上研修(クリ二力ル力ンファレンスセミナー)を開始した。最近は国や県が、かかりつけ医向けの認知症診療対応向上研修を実施し、かかりつけ医による認知症診療もかなり進んできて、アリセプ卜の浸透率も約60%になったと聞いている。しかし、アリセプ卜発売から約12年を経過してのことである。さらに、投与された薬が適切に患者様に届けられているかはまだまだであると思われる。そのようななか、2011年に新薬が3種類発売され、新薬の情報も早く届ける必要がある。また、診断基準の改定など認知症を取り巻く環境は大きく変化してきでいる。そこで、今回本書の改訂を行うこととなった。
 本書を、かかりつけ医の認知症医療に役立てていただけることを期待している。
2012年5月
浦上克哉

かかりつけ医と研修医のために、わかりやすく実践的な認知症診療について記述された本書が出版された。図表とイラストとともに、新しい治療薬についても述べられている改訂版である。認知症診療を理解しやすいように、要点を 13 項目に分けて解説している。そして、本の最後には、かかりつけ医に役立つ具体的な Q & A が紹介されている。
 最初の項目では、認知症の定義と、中核症状と周辺症状はどのようなものかが記載されている。認知症の頻度ではアルツハイマー型認知症が多いことが記されている。3 番目の項目では、認知症診療の理想はかかりつけ医によって行われることが強調されている。早期発見のこつは家族からの情報を得ることが大切で、診察中に質問されると家族のほうを振り向く動作と取り繕いが紹介され、診察室での具体的なやりとりも記載されている。
 5 番目の項目はアルツハイマー型認知症の診断について、かかりつけ医が実践できるように記載されている。スクリーニングテストとして、MMSE(認知機能検査)やタッチパネル式コンピュータを用いた方法、指の形を模倣する構成行為の診方などが紹介されている。画像所見では、MRI 所見の特徴と海馬の統計学的解析結果、脳血流 SPECT 所見の特徴が実際の画像も含めて示されており、かかりつけ医にとって参考になると思われる。正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫などの治療可能な疾患についても、画像とともに解説がされている。認知症との鑑別が必要なうつとせん妄については、鑑別のポイントが簡潔に記載されている。アルツハイマー型認知症の診断基準については改訂された新しい情報も含めて述べられている。
 6 番目の鑑別診断の項目では、血管性認知症、レビー小体型認知症、そして前頭側頭型認知症について、それぞれの疾患の特徴、実際の診察でのポイントなどがイラストと画像で提示されており、臨床で利用できる。アルツハイマー型認知症の治療については、早期に開始することが長期に改善を期待できると述べられ、アリセプト(donepezil)の効果について著者の経験を含めて具体的に述べられている。そして、donepezil 10 mg の増量は早めに考慮したほうがよいと記載されている。2011 年に発売された galantamine、rivastigmine、memantine についても薬理作用、効果、使用法が解説されており、かかりつけ医が処方する際のヒントとなると思われる具体的な処方例も示されている。BPSD(認知症に伴う行動障害と精神症状)への基本的な対処の仕方と薬物治療についても解説されている。
 8 番目の項目では、認知症の告知の大切さと運転免許証返上についての解説がある。9 番目の項目では、家族が認知症について正しく理解していることが、BPSD を軽減することにつながると述べられている。医療と介護の連携については、その重要性が記述され、課題も指摘されている。かかりつけ医の役目である主治医意見書の書き方が、サンプルとともに記されており、すぐに役立つものと思われる。12 番目の項目では、認知症検診と予防教室への取り組みについて著者の経験を中心に記載されている。最後に認知症診療の今後の展望について、ADNI(アルツハイマー病神経画像イニシアチブ)、根本治療薬、診断マーカーについて述べられている。
 本書は、読みやすく、すぐにでも診療に応用でき、かかりつけ医が認知症診療の中心となる理想の医療を実践することに役立つものと考える。

評者● 北村伸
内科110巻6号(2012年12月号)より転載

9784524269235