書籍

筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン2013

監修 : 日本神経学会
ISBN : 978-4-524-26646-3
発行年月 : 2013年12月
判型 : B5
ページ数 : 230

在庫あり

定価4,752円(本体4,400円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

日本神経学会監修による、エビデンスに基づいたオフィシャルな診療ガイドライン。疫学、病態、診断、治療のほか、嚥下障害、呼吸管理、リハビリテーション、コミュニケーション、福祉サービス等を網羅。臨床上重要となるクリニカルクエスチョン(CQ)について、その回答・推奨グレード、背景・目的、解説をエビデンスに基づいて詳述。臨床医の日常診療を支援する必携の一冊。

1.疫学、亜型、経過・予後、病因・病態
 CQ1-1 発症率や有病率、家族性の割合はどのくらいか
 CQ1-2 孤発例の発症リスクにはどのようなものがあるか
 CQ1-3 孤発例の生命予後(侵襲的換気[IV]導入まで)はどのようであるか
 CQ1-4 孤発例の進行・予後を予測する因子は何か
 CQ1-5 家族性ALSにはどのようなものがあるか
 CQ1-6 分類、亜型には何があるか
 CQ1-7 原発性側索硬化症はALSからは独立した疾患か
 CQ1-8 脊髄性筋萎縮症(進行性筋萎縮症)はALSからは独立した疾患か
 CQ1-9 孤発例の認知機能障害の頻度はどのくらいで、その特徴は何か
 CQ1-10 気管切開による人工呼吸器装着長期生存例の経過はどのようであるか
2.診断・鑑別診断・検査
 CQ2-1 診断はどのように行うか
 CQ2-2 診断基準にはどのようなものがあるか
 CQ2-3 鑑別すべき疾患にはどのようなものがあるか
 CQ2-4 線維束性収縮のみを示す場合にどのように対応するか
 CQ2-5 電気生理学的検査の意義は何か
 CQ2-6 針筋電図の施行筋はどのように選択するか
 CQ2-7 呼吸筋の評価にはどのようなものがあるか
 CQ2-8 診断に有用な画像検査はあるか
 CQ2-9 上位運動ニューロン障害の評価法としてはどのようなものがあるか
 CQ2-10 診断における血液検査および脳脊髄液検査の意義は何か
3.告知、診療チーム、事前指示、終末期ケア
 CQ3-1 どのように告知し、病状を説明するか
 CQ3-2 診断が確定していない場合にどのように話すか
 CQ3-3 遺伝についてどのように説明するか
 CQ3-4 認知症やうつがあるALSの告知や治療方針の選択の援助はどのように行うか
 CQ3-5 告知において生命予後はどのように伝えるか
 CQ3-6 進行に即した医療処置についての告知はどのようにするか
 CQ3-7 多職種連携診療チームの意義は何か
 CQ3-8 治療方針の選択において患者本人の意思をどのように尊重するか
 CQ3-9 事前指示がある場合どのように対応するか
 CQ3-10 終末期ケアについてどのように説明するか
 CQ3-11 終末期にはどのような苦痛があり、どのように対処するか
 CQ3-12 強オピオイド(モルヒネなど)はどのように使用するか
 CQ3-13 がんの終末期とはどのように異なるか
4.薬物治療
 CQ4-1 薬物治療にはどのようなものがあるか
 CQ4-2 リルゾールの延命効果はどの程度か
 CQ4-3 リルゾール投与上の注意点はどのようなものか
 CQ4-4 現在行われている治験情報はどのように得られるか
 CQ4-5 再生医療の現状はどのようなものか
 CQ4-6 代替療法についてはどのように説明するか
5.対症療法
 CQ5-1 痛みにはどう対処すればよいか
 CQ5-2 痙縮にはどう対処すればよいか
 CQ5-3 流涎にはどう対処すればよいか
 CQ5-4 不眠にはどう対処すればよいか
 CQ5-5 うつ・不安にはどう対処すればよいか
 CQ5-6 褥瘡にはどう対処すればよいか
 CQ5-7 便秘にはどう対処すればよいか
 CQ5-8 認知症にはどう対処すればよいか
 CQ5-9 強迫笑・強迫泣にはどう対処すればよいか
6.嚥下・栄養
 CQ6-1 代謝・栄養障害にはどう対処すればよいか
 CQ6-2 摂食嚥下障害にはどう対処すればよいか
 CQ6-3 経口摂取が困難になったときにはどう対処すればよいか
 CQ6-4 経腸栄養による栄養管理はどのようにしたらよいか
 CQ6-5 胃瘻造設・管理はどのようにしたらよいか
 CQ6-6 家族または介護職に対する経管栄養法の指導はどのようにしたらよいか
7.呼吸管理
 CQ7-1 呼吸不全の早期診断はどうすればよいか
 CQ7-2 呼吸機能障害に対するリハビリテーションはどのように行うか
 CQ7-3 排痰方法にはどのようなものがあるか
 CQ7-4 家族または介護職に対する吸引の指導はどのようにしたらよいか
 CQ7-5 人工呼吸療法にはどのようなものがあるか
 CQ7-6 非侵襲的陽圧換気(NPPV)による呼吸補助はいつ開始するか
 CQ7-7 どのような場合に気管切開を考慮するか
 CQ7-8 気管切開下陽圧換気(TPPV)療法を希望する場合、いつ、どのように行うか
 CQ7-9 人工呼吸器はどのように選択するか
 CQ7-10 停電に備えてどのように対応するか
 CQ7-11 気管切開下陽圧換気(TPPV)開始後、患者本人または家族が呼吸器離脱を希望した場合は、どのように対応するか
8.リハビリテーション
 CQ8-1 リハビリテーションの目的は何か
 CQ8-2 四肢・体幹運動機能障害に対するリハビリテーションはどのように行うか
 CQ8-3 構音機能障害に対するリハビリテーションは何が有用か
 CQ8-4 ADL維持・向上に使われる補助具にはどのようなものがあるか
 CQ8-5 ALS患者のQOLはどのように考えたらよいか
 CQ8-6 QOLの評価に用いられる尺度にはどのようなものがあるか
 CQ8-7 患者のQOLを向上させるためにはどのようなことが有用か
 CQ8-8 介護者のQOLを向上させるためにはどのようなことが有用か
 CQ8-9 性生活に制限はあるか
9.コミュニケーション
 CQ9-1 コミュニケーション障害の特徴は何か
 CQ9-2 コミュニケーションを補助する手段や機器にはどのようなものがあるか
 CQ9-3 コミュニケーション障害(構音障害ほか)の評価方法にはどのようなものがあるか
 CQ9-4 コミュニケーション障害への補助機器(IT 機器ほか)の選択と導入の時期はどうするか
 CQ9-5 気管切開下陽圧換気(TPPV)導入後のコミュニケーションをどうするか
 CQ9-6 文字盤にはどのようなものがあり、どのように利用するか
 CQ9-7 コミュニケーション用IT 機器利用の現状はどうなっているか
10.難病ネットワーク、福祉サービス、災害時の対処
 CQ10-1 公的援助や行政サービスにはどのようなものがあり、相談は誰にすればよいか
 CQ10-2 診断書などを書くときの注意点は何か
 CQ10-3 痰の吸引や胃瘻の介助は誰が行うことができるのか
 CQ10-4 療養における費用負担はどのくらいか
 CQ10-5 難病ネットワークとは何か
 CQ10-6 在宅療養を成功させるためにはどのようにしたらよいか
 CQ10-7 レスパイト入院とはどのようなものか
 CQ10-8 地震などの大規模自然災害に対してどのような準備をするか
 CQ10-9 災害時に在宅医療機器の電源をどう確保するか
 CQ10-10 ALSの診療報酬はどのようになっているか
巻末資料
索引

2002年、日本神経学会「ALS治療ガイドライン作成小委員会(田代邦雄委員長)」により「ALS治療ガイドライン」(臨床神経2002;42:676-719)が刊行されて以来、10年余が経過した。この間、ALSに対する種々の薬物治験が行われたが、残念ながらリルゾール以外には病態修飾薬は見い出されることなく今日に至っている。一方、ALSの診断、検査法、対症療法およびケアにおいては着実な進歩が認められており、ALSガイドライン改訂の機運が高まってきた。この状況を受けて、日本神経学会主導のもと、厚生労働省「神経変性疾患に関する調査研究」班の協力を得て、2011年秋、「筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン」作成委員会が発足、改訂に着手した。
【当ガイドラインの基本方針】
1。ALS診療に携わるすべての医師を対象とする
 1)最主要対象は神経内科医である:ALSと診断がついた時点でその患者へのかかわりは終了したと考える神経内科医が見受けられる。これは、ALSに対する知識不足、理解不足のゆえの不本意ながらの対応と推察される。一方、ALS 診療に取り組んでいる神経内科医でもその万全の知識を備えることは困難である。本ガイドラインは前者に対してはALS 診療の基本を伝え、後者に対してはその知識の補完を促し、よりよいALS 診療を行うための指針となることを目指すものである。
 2)ALS診療に携わる神経内科医以外の医師も対象とする:一般にALS 患者は四肢の筋力低下で発症した場合には整形外科医もしくは脳外科医を、球症状で初発した際には耳鼻科医を初診する。当ガイドラインは、これらの医師がALSの可能性を念頭に置き、時を失することなく神経内科医に紹介するための手助けになることも目指す。また、わが国では気管切開下陽圧換気(tracheostomy positive pressure ventilation:TPPV)下の在宅療養患者が少なくない。その在宅診療を担う往診医の多くは内科医であり、このような医師をも対象とする。
2。実地診療に役立ち、活用されることを目指す
 専門家の執筆内容は勢い詳細で難解に流れやすい。当ガイドラインでは煩雑な記載は極力避け、正確さは多少犠牲にしても簡明さを優先させた。執筆者はALS 診療のプロである。それぞれが、「複雑さを知り抜いたうえでの単純明快さ」を旨として執筆するように心がけた。
3。執筆形式と項目
 「Minds診療ガイドライン作成の手引き2007」(福井次矢、吉田雅博、山口直人編、医学書院)に則りCQ(clinical question)形式を採用し、今回は「筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン」と命名して診断や検査法についても記載した。ALS診療ではエビデンスを求め難いCQ、あるいは推奨を決められないCQが多く、その場合には委員会判断で推奨もしくは回答を記載することにした。2011年10月10日に評価調整委員を含めた全体会議を開いて全体の章立てを行い、その後の委員会でCQを決定した。
4。エビデンスレベルと推奨グレード
 「Minds 診療ガイドライン作成の手引き2007」(福井次矢、吉田雅博、山口直人編、医学書院)中の以下(表1、表2)を用いた。

表1 本ガイドラインで用いたエビデンスのレベル分類(質の高いもの順)
 I システマティック・レビュー/RCTのメタアナリシス
 II 1つ以上のランダム化比較試験による
 III 非ランダム化比較試験による
 IV a 分析疫学的研究(コホート研究)
 IV b 分析疫学的研究(症例対照研究、横断研究)
 V 記述研究(症例報告やケース・シリーズ)
 VI 患者データに基づかない、専門委員会や専門家個人の意見
(Minds診療ガイドライン選定部会監修:Minds 診療ガイドライン作成の手引き2007、医学書院、東京、p15、2007より転載)

表2 本ガイドラインで用いたグレード分類
 推奨グレード内容
 グレードA 強い科学的根拠があり、行うよう強く勧められる。
 グレードB 科学的根拠があり、行うよう勧められる
 グレードC1 科学的根拠はないが、行うよう勧められる
 グレードC2 科学的根拠はなく、行わないよう勧められる
 グレードD 無効性あるいは害を示す科学的根拠があり、行わないよう勧められる
(Minds診療ガイドライン選定部会監修:Minds 診療ガイドライン作成の手引き2007、医学書院、東京、p16、2007より転載)

5。文献検索
 日本医学図書館協会に依頼して、医中誌、JMEDPlus、PubMed、Cochrane Libraryをデータベースとして2000年以降の文献を検索した。これ以外の必要論文は、担当者が各自渉猟した。
6。委員会見解
 本ガイドラインのCQには、EBMの方法論により検証が可能な医学的事項と、その方法論になじまない社会保障や制度的事項などを含め多様なものが含まれている。後者に関しては、委員会で討議し、委員会見解として記載した。
7。利益相反
 作成に携わった委員長をはじめとする各委員、研究協力者は、参加にあたり「日本神経学会診療ガイドライン作成に係る利益相反(conflict of interest:COI)自己申告書」を日本神経学会に提出し、同学会の承認を得た。
8。作成費用
 すべて日本神経学会の経費に依った。
 ALSは、患者とその家族に強い精神的・身体的苦悩と重い経済的負担を強いる疾患であることは言を俟たないが、時にはその診療に当たる医師の意気をも挫きがちになる厳しい疾患である。本ガイドラインが、ALS診療に携わる医師の座右の書として活用され、ひいては患者・家族が負える重荷の些かなりの軽減に資することを願う次第である。

2013年11月
「筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン」作成委員会委員長
中野今治

医学・医療に関係のある人々にとって「筋萎縮性側索硬化症」の名は心に重く響く。この長くて意味のつかみにくい病名よりも、近年では「ALS」の略称のほうが一般化している。それだけ関心が深い疾患といえよう。世界で初めて設置された神経学講座に就任した有名なフランスのCharcot(シャルコー)教授がこの病気を病理学の面から記載して以来、今日にいたる百数十年の間に、いかに多くの神経学者がこの疾患の本態や病因、治療の解明に努力したことであろう。その弛むことのない努力にもかかわらず、立ちはだかる障壁はいまだに崩れをみせていない。研究者にとっても、患者にとっても「難病」である。
 日本においては、ALSは人口10万人あたり7〜11人とされる。医師は同じく人口10万人対数で約230人(2008年)である。小児科や産婦人科、あるいは実際に診療に携わっていない医師などを除くと、おおよそ医師20人に対してALS患者が1人と概算される。臨床医にとって、本症患者の診療にあたる機会は少なくないはずである。
 本書は、日本神経学会から2002年に発行された「筋萎縮性側索硬化症治療ガイドライン」の全面的な改訂版である。「治療」から「診療」と改名された。日本神経学会の監修、「筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン」作成委員会の編集、委員長には中野今治先生(東京都立神経病院院長)が、副委員長には梶 龍兒先生(徳島大学教授)があたり、11名の委員ほかが分担執筆した。
 2002年版同様のQ&A(質問と回答)方式で作成されており、問題点が探しやすく、解説は簡明に記されている。文献も重要なものがもれなく掲載されており、さらに深い内容を求める読者には至便である。
 本文は10項目からなる。
 病態、亜型、経過などの項目では、本症の基礎的な事項が述べられている。本症には「運動ニューロン疾患」の別名がある。錐体路系(上位運動ニューロン)と前角運動細胞からなる下位運動ニューロンの選択的変性症であり、孤発するとされていたが、その組み合わせも程度もさまざまであり、認知症を伴う型(ALS-D)、家族性ALS(計20種)、痛みを伴う症例の存在などが明らかとなった。また、異常蛋白からなるTDP-43封入体が発見され、前頭側頭型認知症(FTLD)との深い関連が示唆されている。
 ALSの診断は、従来「El Escorial基準(1994)」、「改定El Escorial基準(1998)」が国際的に用いられてきたが、2008年に筋電図所見をさらに重視した「Awaji基準」が提唱された(まだ公式な診断基準とはなっていない)。
 本症の患者およびその家族への告知、説明はいかになすべきか。薬物治療、対症療法の選択、注意、精神面での対応、二次的な合併症、栄養や呼吸の管理、リハビリテーションの導入、在宅医療など、本症患者診療上の問題点がQ&A方式で詳細に解説されている。
 本書はALSの「診療ガイドライン」に留まらず、百数十年にわたる本症の研究と診療の足跡を凝縮したモノグラフである。計230ページではあるが、その内容は充実、洗練されており、神経内科の専門医のみならず、広く各科の医師や看護関係者にも理解しやすい書となっている。
 神経内科専門医にとっては、近年その名を目にする頻度がやや低くなったが、疾患概念や本態に関心が深いであろうVulpian-Bernhardt病、Kugelberg-Welander病、進行性筋萎縮症(PMA)、原発性側索硬化症(PLS)などについての解説もある。懐旧の念を新たにし、これらの歴史的疾患についての再認識を抱かれることを期待したい。

臨床雑誌内科114巻3号(2014年9月号)より転載
評者●名古屋大学名誉教授/東海中央病院名誉院長 橋昭