書籍

グローバル感染症マニュアル

編集 : 国立国際医療研究センター国際感染症センター
ISBN : 978-4-524-26574-9
発行年月 : 2015年4月
判型 : B5
ページ数 : 254

在庫あり

定価5,400円(本体5,000円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

輸入感染症や新興・再興感染症などのグローバル感染症について、診断・治療はもちろん世界的な状況、渡航相談への対応など臨床現場で必要な情報を、診療の最前線に立つDCCが総力を挙げてまとめた。直感的に把握しやすいよう、症候・感染症ごとの診療フローチャートや流行地のマップなども掲載。海外への出国者、また海外からの入国者が増加し、感染伝播が加速しつつある今だからこそ、すべての臨床医が必携しておきたい一冊。

I章 グローバル感染症診療の実践
 A 総論:グローバル感染症診療において留意する点
 B 発熱
  1 発熱患者へのアプローチ
  2 マラリア
  3 デング熱
  4 腸チフス・パラチフス
  5 レプトスピラ症
  6 リケッチア症
  7 急性肝炎(A型肝炎,E型肝炎)
   7-1 急性肝炎(A型肝炎)
   7-2 急性肝炎(E型肝炎)
 C 下痢
  1 下痢症へのアプローチ
  2 急性下痢症
  3 慢性下痢症
  4 赤痢アメーバ
 D 皮疹
  1 皮疹・発熱のある患者へのアプローチ
  2 代表的な熱帯皮膚感染症
   2-1 細菌感染症
   2-2 表在性皮膚真菌症
   2-3 深在性皮膚真菌(放線菌)症
   2-4 皮膚抗酸菌症
   2-5 原虫感染症
   2-6 寄生虫による皮膚疾患
   2-7 虫による皮膚疾患
 E 呼吸器症状
  1 呼吸器症状へのアプローチ
 F 好酸球増多症
  1 好酸球増多症へのアプローチ
  2 住血吸虫症
  3 その他の主な寄生虫感染症
 G STD
 H 動物咬傷
  1 動物咬傷のマネージメント
  2 破傷風
  3 狂犬病(曝露後予防を含む)
 I 特殊な感染症
  1 ウイルス性出血熱
  2 渡航者の真菌感染症
   2-1 コクシジオイデス症
   2-2 ヒストプラスマ症(カプスラーツム型)
   2-3 パラコクシジオイデス症
   2-4 真菌感染症の治療とポイント
 J 多剤耐性菌の輸入
II章 トラベルクリニックマニュアル
 A 基本的な考え方
 B 渡航先別の予防・対策
  1 東南アジア・東アジア(中国,台湾,韓国など)
  2 南アジア
  3 中東
  4 アフリカ
  5 ヨーロッパ
  6 パシフィックアイランズ(オセアニア)
  7 ラテンアメリカ
 C 相談の多い有名な渡航地・観光地
  1 南アメリカ
   1-1 クスコ・マチュピチュ
   1-2 イグアスの滝
  2 アフリカ
   2-1 サファリ(ケニア,タンザニア)
   2-2 キリマンジャロ
   2-3 南部アフリカ
  3 東南アジア,
   3-1 アンコールワット
  4 北インド(デリー,アグラ,バラナシ,コルカタ)
 D 渡航者へのワクチン接種
  1 渡航者へのワクチン接種概論
  2 未承認ワクチンについて
  3 小児への渡航前ワクチン接種
  4 アナフィラキシーへの対応
 E 各種ワクチンを押さえる
  1 国際保健規則によって定められるワクチン(黄熱ワクチン)
  2 予防接種法によって定められる(定期接種)ワクチン
   2-1 破傷風トキソイド(ジフテリア・百日咳を含む)
   2-2 ポリオワクチン
   2-3 日本脳炎ワクチン
   2-4 麻疹,ムンプス,風疹,水痘ワクチン
  3 その他のワクチン(任意接種ワクチン):国内承認があるもの
   3-1 A型肝炎ワクチン
   3-2 B型肝炎ワクチン
   3-3 狂犬病ワクチン
   3-4 髄膜炎箘ワクチン
  4 その他のワクチン(任意接種ワクチン):未承認のもの
   4-1 腸チフスワクチン
 F 渡航前健康診断
 G マラリア予防内服
 H 防蚊対策
 I 高山病の予防・対処
 J 旅行者下痢症の対策
 K 妊婦・授乳婦の渡航
III章 グローバル感染症診療に役立つ!情報のまとめ
 A 移民・難民に対する診療
 B 海外からの転送・受け入れ
 C 迅速診断キットの使い方
 D 感染症法・IHR届出疾患のまとめ
 E 渡航地域ごとの推奨トラベラーズワクチンのまとめ
 F 関連する資格について
 G 役立つウェブサイトのまとめ
 H 特殊な感染症が疑われる場合の検査機関一覧,
索引

はじめに

 日本人の海外渡航者は年間1,800万人を超えた。一方、海外からも旅行者、労働者として多数の人が日本を訪れている。また日本では2020年にオリンピック・パラリンピックの開催が決定した。日本の社会自体が大きく国際化に向けて歩みを始めようとしている。
 国外に出かけることによって、社会のありよう、生活習慣、食物、自然……と、日本とは様々な異なる環境に曝されることにより、健康上のリスクが高くなる。中でも感染症は急速に進行し重篤となりうる可能性もあるため、注意が必要である。海外に行くのは、日本の都市部の人々だけではない。日本のあらゆる地域の、あらゆる世代の方々が今や海外に出かけている。これは日本の国中どの医療機関でも、輸入感染症の患者に遭遇しうることを意味している。リスク回避のための渡航前の医学的コンサルテーションの重要性も認知されつつあり、渡航前の健康相談の重要性も認識され始めている。
 海外に向かう人々の質も以前とは異なってきている。高齢者の海外渡航が増えている。高齢者は基礎疾患を持っている可能性が高い。医療が高度化し、免疫抑制薬や生物製剤を用いられる影響で、免疫不全を抱えた患者が増えている。このような患者のすべてが海外旅行を忌避するわけではなく、実際には免疫不全を抱える患者も多く海外に渡航している。よって、単に海外渡航者が増えているばかりでなく、その中には感染などの健康リスクの高い患者も一定数含まれており、しかもその数は増加しつつあると思われる。では、健康管理に当たるのは誰か。必ずしも専門家だけではない。すでに健康の問題を抱える患者にとって、もっとも相談しやすい相手は、遠くの施設にいる旅行医学を専門とする医師ではなく、かかりつけの医師であろう。つまり普段から患者の高血圧や糖尿病、リウマチといった疾患を診ている医師こそが、このリスク管理を依頼される可能性があるわけだ。
 このように、日本の医療者は、海外渡航前後の患者の健康リスクを適切に扱う必要に迫られている。従来、国際感染症対策は一部の専門医の仕事であると考えられてきた。しかし、「専門外」といって避けては通れない時代になってきている。すべての臨床医に国際感染症の知識が求められている時代なのである。一般医の外来にも、患者が海外旅行に関係する健康相談目的で受診することも十分にありうるのだ。しかしこれまでは、日本で旅行医学を実践することは容易ではなかった。情報が不足しているからである。従来は英文の情報に頼るしかなく、和書でこの期待に添えるものはなかった。もう1つは、旅行医学の経験が乏しいためにノウハウの蓄積が少なかったからである。書籍や論文に書かれている情報は外国での医療事情という文脈の中での事実が提示されているため、日本国内の医療機関で情報をそのまま実践に用いることは、ときに不都合を生むことがある。
 国立国際医療研究センター国際感染症センター(DCC)では、トラベルクリニックを設け、渡航前のワクチン接種などの予防から渡航後の治療・管理まで、包括的に国際感染症診療に取り組んできた。そこでは豊富な知識と対応のノウハウが蓄積されている。そこで、この内容を言語化し、現状で報告されている研究的事実を踏まえながら、DCCが経験の中で積み重ねてきたノウハウを実践的に解説しようと試みたのが本書である。
 私たちは、トラベルクリニックでの業務は、プライマリ・ケアであると考えている。感染症対策はあくまでその一面であって、トラベルクリニックに訪れる方々の健康上のリスク・問題は感染症ばかりではない。しかし各論としての感染症対策は重要である。本書が、日本における国際感染症対策に貢献し、ひいてはInternational Primary Careとでもいうべき領域の確立に繋がっていくことを期待している。

2015年4月
編集責任者代表 大曲貴夫

 自分の本棚に1冊のテキストがあることで、日々の臨床に、そして世界に向き合うことができる。今回そのようなテキストが上梓されたことに感謝したい。
 私は地方中規模病院内科医として、現在の病院に10年以上にわたり勤務をしている。恥ずかしながら、パスポートを所持したこともなく、海外に行ったこともない。そんな私でも日々の臨床に向き合っていると、世界のほうから自分のまとっている殻をたたいて、殻に割れ目をつくってくれることがある。
 この10年間の日々を振り返ってみても、いくつかの出会いがあった。なかでもインドネシアでデング熱を発症し、搬送されてきた80歳代の男性患者を忘れることはできない。インドネシアの女性医師の付き添いのもとに来院された。患者を搬送してきた女性医師は、信州の雪をみながら“Oh!It’s snow.This is my first trip to Japan.”とニコニコしながら、インドネシア(バリ島)における感染症事情について、1時間ぐらいミニレクチャーをしてくれた。
 その後、海外渡航後に発症したデング熱患者に出会う機会が3回ほどあった。フィリピンから旅行にきた青年が日本で腸チフスを発症したこともあった。私の外来には、定期的にインドネシアから関節リウマチの診療に通っている方もおり、関節炎が悪化するとチクングニア熱に罹患したのではないかと疑うようなこともある。海外渡航後の下痢症に対応することもしばしばある。そのたびにあのインドネシアの医師を思い出す。しかし、その土地の感染症に精通している医師がいつも患者に同行してくれるわけではない。そのようなときに「I章 グローバル感染症診療の実践」はとても心強い味方になる。
 地域社会も世界と深いつながりをもっている。諏訪盆地は主に中国、台湾、東南アジア諸国と精密機械工業を中心とした産業を介してつながっている。自分たちが責任をもっている地域が、世界とつながっている。そのことに気づいた若手医師たちは、すでに行動を始めた。国立国際医療研究センターで半年間の研修を受けた当院総合診療部の医師を中心に、諏訪中央病院でもワクチン外来を開設し、海外と行き来しながら仕事をしている人々の相談に乗っている。「II章 トラベルクリニックマニュアル」はそんな彼らと、彼らを支える私たちにとって、実践的な示唆を与えてくれる。
 「III章 グローバル感染症診療に役立つ!情報のまとめ」は、現場で何が必要とされているかを深く理解している方々によって準備された章である。このような細部にいたる配慮がこのテキストをより魅力的かつ実践的なものにしている。
 世界と向き合うときの不安。ややもすれば、そのような不安は自分を自分の小さな殻に閉じ込めてしまう。けれども、ほんの少しの支えがあることで、その不安と向き合うことが可能となり、自分の世界を広げてくれる。自分が責任をもっている地域と世界は思いのほか緊密につながっている。そのつながり方がその地域と医療のあり方を特徴づけている。そのような時代において、国立国際医療研究センター国際感染症センターの皆様によって上梓された『グローバル感染症マニュアル』は、私たちの臨床を支えてくれると同時に、日々の臨床を介して私たちが世界に開かれていくことを支えてくれるに違いない。

臨床雑誌内科116巻6号(2015年12月増大号)より転載
評者●諏訪中央病院内科総合診療部部長 佐藤泰吾