書籍

運動器の痛みプライマリケア

下腿・足の痛み

編集 : 菊地臣一
ISBN : 978-4-524-26416-2
発行年月 : 2012年10月
判型 : B5
ページ数 : 332

在庫あり

定価5,940円(本体5,500円 + 税)

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

局所の痛みにとどまらない難解な運動器の痛みを、トータルペイン・パーソナルアプローチの観点からやさしく解説。外反母趾や皮膚疾患、陥入爪など、多様な局所疾患による痛み診療の実際を提示。また、靴の影響やスポーツに伴って生ずる痛み、関節リウマチや糖尿病など全身性疾患による痛みなど、痛みの鑑別から治療、日常生活指導から手術までプライマリケアの全容を網羅した。

I 痛みについて
 1 運動器のプライマリケア-careを重視した全人的アプローチの新たな流れ
 2 運動器の疼痛をどう捉えるか-局所の痛みからtotal painへ、痛みの治療から機能障害の克服ヘ
 3 疼痛-診察のポイントと評価の仕方
 4 治療にあたってのインフォームド・コンセント-必要性と重要性
 5 各種治療手技の概要と適応
  a.薬物療法
   1)医師の立場から-薬効からみた処方のポイント
   2)薬剤師の立場から-処方箋のチェックポイント
  b.ペインクリニックのアプローチ
  c.東洋医学的アプローチ
  d.理学療法
  e.運動療法
  f.リ工ゾン(精神医学)アプローチ
  g.集学的アプローチ
 6 運動器不安定症-概念と治療体系
 7 作業関連筋骨格系障害による痛み
II 下腿・足の痛みについて
 1 診療に必要な基礎知識-解剖と生理
 2 診察手順とポイン卜
  a.成人の下腿・足の痛み
  b.小児の下腿・足の痛み
  c.スポーツに伴う下腿・足の痛み
 3 他部位由来の下腿・足の痛み
  a.腰椎疾患による下腿・足の痛み
  b.血行障害による下腿・足の痛み
  c.尖足による中足骨頭部痛
  d.長母趾または長趾屈筋・腱の拘縮による足趾痛
 4 画像診断-価値と限界
 5 各種治療手技と実際の注意点
  a.薬物療法
  b.装具療法
  c.固定療法(テーピング)
  d.理学・運動療法
  e.ペインクリニックによるアプローチ
  f.東洋医学的アプローチ
 6 靴による足の痛み
 7 全身性疾患による足の痛み
  a.関節リウマチ
  b.痛風
  c.糖尿病性足部障害
 8 痛み診療のために知っておくべき特殊な疾患・病態
  a.下腿・足の痛みの原因となる骨・軟部腫瘍
  b.下腿・足の痛みの原因となる骨系統疾患
III 成人の主な疾患や病態による痛みの治療-私はこうしている
 1 皮膚疾患による痛み
 2 陥入爪、爪囲炎による痛み
  a.治療の実際(1)
  b.治療の実際(2)
 3 変形性足関節症による痛み
 4 外反母趾による痛み
  a.治療の実際(1)
  b.治療の実際(2)
  c.治療の実際(3)
 5 絞扼性神経障害による痛み
 6 扁平足による痛み
 7 種子骨・過剰骨による痛み
 8 スポーツ障害による痛み
IV 小児・思春期の主な疾患や病態による痛みの治療-私はこうしている
 1 扁平足による痛み
 2 骨端障害による痛み
 3 足根骨癒合症による痛み
 4 スポーツ障害による痛み
索引

腰痛、肩こり、そして関節痛など、運動器の痛みは国民に多い愁訴のオンパレードである。この傾向は高齢化の進展とともにますます顕著になっていくものと予想される。
 運動器の痛みは、支持と運動という相反する機能をもつがゆえの過重な負担の結果であることが少なくない。それだけに、その診療にあたる医療従事者は生体力学的知識をもつことが求められる。それに加えて運動器の痛みには、従来われわれが認識していた以上に早期から、心理・社会的因子が深く関与していることも明らかになってきた。当然、適切な診療を行うためにはこれらの知識も必要である。このような知見の集積から、近年は腰痛を代表とする運動器の痛みを、単なる「解剖学的異常」から「生物・心理・社会的疼痛症候群」として捉えようという動きが始まっている。つまり、運動器の痛みを「local pain」としてではなく「total pain」として捉えて診療にあたるということである。
 疼痛には、器質的、そして機能的な因子が複雑に絡み合っていることがわかってきた。運動器の疼痛、特に患者さんの多い慢性疼痛の診療には、それに応じた診療体系が求められる。それはまず、「cure」だけでなく「care」という視点の導入である。次に、多面的、集学的アプローチの導入である。わが国の医療システムや患者の立場を考えると、1人の運動器の疼痛診療従事者が中心となって診療を進めていくのが妥当といえる。そのためには、自分の専門領域の知識、技術、そしてknow-howのみならず、学際領域でのそれらの習得も必要になってくる。これにより、「何を治療するか」ではなくて、「誰を治療するか」という視点をもった診療が可能になる。
 運動器の痛みのプライマリケアを部位別に取り上げていくというのがこのシリーズの構成になっている。しかし、運動器の痛みのプライマリケアにあたっては、部位に関係なく患者と医療従事者の信頼関係の確立が死活的に重要である。なぜならば、EBM(evidence-based medicine)が教えてくれたのは、皮肉にもNBM(narrative-based medicine)の重要性だからである。医療従事者と患者との信頼関係の確立により、患者の診療に対する満足度はもとより、治療成績も向上することはよく知られている。また、信頼関係があればこそ、長期にわたるcareも可能になる。
 本シリーズは、近年の運動器の痛みを診療するうえで必要な新知見を総論に、各論には部位別にみた最前線の診療の提示という構成にした。総論のうち「I 痛みについて」はシリーズ共通の内容である。執筆者には、第一線の診療現場で活躍している先生方に、know-howを含めた実践的診療の記載をお願いした。
 本巻は、「下腿・足」の痛みをまとめた。超高齢社会の今、下腿や足の痛みは、健康寿命の保持という点からきわめて重要な障害になり得る。治療では、高齢者の患者が少なくないため根治的療法だけでなく、日常生活上の支障を軽減するというcareへの配慮も大切である。このシリーズが、運動器の痛みのプライマリケアの向上に役立ち、結果的に、運動器の痛みの診療に従事している人々に対する国民の信頼が高まることを期待している。
2012年9月
菊地臣一

本書は「運動器の痛みプライマリケア」として発刊されているシリーズのうち、「下腿・足の痛み」についてまとめたものである。本書と同じく南江堂から1990年代に「整形外科痛みへのアプローチ」というシリーズ本が発刊され、たいへん好評であったと聞いている。本書のタイトルをみる限り、既存シリーズのリニューアル版のような印象を受けるが、これとは異なる。「運動器の痛み」を新たな視点からとらえたまったくの新刊書である。このことは序文を読むだけでもよくわかる。これからの疼痛治療のありかたを指し示した含蓄のある序文である。
 さて、本書の構成であるが、大きく4つの章に分けられている。「I。痛みについて」は、本シリーズの要といえる「痛み」について、さまざまな観点からの解説が総論的になされている。この部分だけ独立させてシリーズの一冊としても、価値のある項目立てである。それぞれの内容は濃厚であり、本章にかなりの重点をおいていることが読み取れる。シリーズに共通している章ということで、読みたいと思う部位別の一冊を購入するだけで、「痛み」についての最新の知識が得られるというメリットは少なくない。ただ、紙数の制限があるせいか、少々舌足らずな感がしないでもない。多忙な臨床家が理解を深めるためには、もう少し踏み込んだ解説のほうがむしろ親切であったかもしれない。Narrative-based medicine(NBM)を例にとると、実際の診療録の記載例を示すだけでも理解が深まり、明日からの診療に役立つ、より実践的なものになるのではと思う。もっとも、引用文献はしっかりとあげられているので、必要に応じて文献を繙けばよいことではある。
 「II。下腿・足の痛みについて」においては、成人や小児の足の痛みのみかたはもとより、スポーツに起因する痛みのみかたについても解説している。足関節・足部はスポーツ傷害が多発する部位であり、知っておくべき事項が明瞭にまとめられているのがよい。また、痛みの診察においては、その原因が他部位に由来するものかを鑑別しておかなければならない。基礎疾患の部分症状として足部が痛むこともまれではない。腫瘍や靴による痛みを含め、ぜひとも押さえておかなければならない診察のポイントが簡潔にかつ丁寧に解説されている。加えて、「各種治療手技と実際の注意点」と題して、装具療法、テーピング、理学・運動療法、さらに神経ブロックや鍼灸、漢方治療についても解説されている。このあたりの項目立てとその内容は類似の書籍と一線を画するものであり、さまざまな工夫が本書を新鮮なものにしている。
 III〜IV章においては、成人と小児・思春期の痛みの治療について、それぞれ「私はこうしている」という副題がつけられており、具体例をあげて解説がなされている。執筆者が自身の経験をふまえて記述しているので、具体的かつ説得力のある内容となっている。時には、その疾患を取り扱ううえでのコツやピットフォールについても触れておられ、実地臨床に即している。本章にあげられた疾患は限定されたものであり、すべての疾患やスポーツ傷害による痛みの治療方法を網羅しているというわけではないが、日常診療で遭遇する頻度の高いものは漏れなく解説されている。書籍のボリュームからみても、実用書としては十分なものであろう。
 本書の執筆者は足の外科、スポーツ医学、ペインクリニック、リハビリテーション、東洋医学などそれぞれの専門分野のエキスパートである。みな論述や解説書の執筆にたけた方々ばかりであり、編集者の意図に沿って簡潔・明瞭にまとめておられる。ヒトの健康増進や健康寿命の保持という最終目的のために、「運動器の痛み」にどう立ち向かっていくか、その手法が具体的に示された一冊といえ、良書である。一読することをおすすめする。

評者●木下光雄
整形外科64巻3号(2013年3月号)より転載