書籍

仙腸関節の痛み

診断のつかない腰痛

: 村上栄一
ISBN : 978-4-524-26402-5
発行年月 : 2012年3月
判型 : B5
ページ数 : 178

在庫あり

定価6,480円(本体6,000円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

原因疾患が明らかでない、非特異性といわれる腰痛・殿部痛のうち、仙腸関節障害由来の疼痛の占める割合が多いことが、特に整形外科医・脳外科医の間で認知されているが、MRIやCTで特異な所見を捉えることが困難なために、その多くが見逃されている。その疾患概念から、診断の決め手となる疼痛誘発テスト、仙腸関節ブロックの実際を豊富な写真で詳説、さらに治療の最終手段となる仙腸関節固定術からリハビリ、予防法までを解説したハンドブック。

1章 歴史から忘れられた仙腸関節
 1.腰痛の原因
 2.忘れ去られた関節=仙腸関節
  COLUMN 仙腸関節の研究を行うようになったきっかけ

2章 仙腸関節の基礎
 1.解剖
  a 四足歩行から二足歩行への進化
  b 形態解剖
  c 仙腸関節の特異性
 2.神経支配
 3.バイオメカニクス
  a 二足歩行に最も適合した仙腸関節
  b 関節の反射
  c 可動域
  d 骨盤運動学
  e 骨盤の安定機構
  COLUMN ダンパー作用を持つ仙腸関節
  COLUMN 絶妙な仙腸関節の働き
  COLUMN 仙腸関節の動きを制御する長後仙腸靱帯と仙結節靱帯

3章 仙腸関節の痛みの病態
 1.疾患概念と疫学
  a 病態
  b 仙腸関節障害の誘因
  c 仙腸関節の病態の分類
  d 腰椎疾患と仙腸関節障害との合併
  e 頻度と年齢分布
 2.臨床症状
  a 特徴的な疼痛域
  b 疼痛としびれの領域
  c 関連痛の把握なしに下肢痛の診断は困難
  d 下肢症状からの仙腸関節障害と腰部神経根障害の鑑別
  e 疼痛発現動作の特徴
  f 座位による疼痛
 3.理学所見
  a 神経学的所見
  b 圧痛点
  c 下肢伸展拳上(SLR)テストとbow string徴候の意義
 4.検査所見
  a 画像所見
  b 血液検査所見
  COLUMN 仙腸関節障害は機能障害という点で肘内障の病態に類似している
  COLUMN 仙台社会保険病院腰痛・仙腸関節センターの仙腸関節障害患者の構成
  COLUMN 大転子から膝外側に走る痛み―仙腸関節障害を疑え!
  COLUMN 座位で疼痛が出る原理
  COLUMN ストレスCT所見
  COLUMN 腸骨硬化性骨炎と変形性仙腸関節症
  COLUMN 無症候性MRI病変

4章 仙腸関節の痛みの診断
 1.特徴的な疼痛域
 2.検査
  a 疼痛誘発テスト
  b one finger test(1本指さしテスト)
  c 診断に有用な圧痛点
 3.診断
  a 仙腸関節障害の診断
  b 診断の流れ
  c ブロック効果の判断の時期
 4.鑑別診断
  a 腰椎疾患およびその周辺の痛みとの鑑別
  b 股関節障害と仙腸関節
  c 鑑別を要する他臓器疾患
  COLUMN 画像所見に騙されないでください!
  COLUMN 疼痛域の同定法に注意!
  COLUMN 仙腸関節スコア(試案)
  COLUMN 仙腸関節障害の痛みと腰椎疾患の仙腸関節部への痛みの鑑別のポイント
  COLUMN 仙腸関節ブロックで軽快しない大転子後面の痛み
  COLUMN スポーツ障害と仙腸関節の痛み

5章 仙腸関節の痛みの治療
 1.治療方針
 2.保存療法
  a 仙腸関節ブロック
  b 薬物療法
  c 骨盤ゴムベルトの装着
  d AKA-博田法
 3.手術療法(仙腸関節固定術)
  a 適応
  b 手術法の変遷
  c 手順の紹介
  d 後療法と生活指導
  e 術後成績
  f 合併症
  COLUMN 仙腸関節部の温熱療法が有効!
  COLUMN 鍼治療

6章 仙腸関節ブロック:マニュアル
[A.ベッドサイドブロック]
 1.最適体位
  a 腹臥位
  b 立位前屈位
  c 座位前屈位
 2.使用物品
  a 局所麻酔薬
  b ブロック針
  c 注射筒
 3.上後腸骨棘(PSIS)の同定
  a 同定法1
  b 同定法2
  c 同定法3
 4.ブロック針の刺入方向
  a 効果的なブロック針刺入
  b 安全な刺入方向
  c 安全で効果的なブロック針の刺入方向
 5.ブロック針刺入の実際
  a 立位前屈位
  b ブロック針の刺入
 6.ブロック針刺入時の注意点
  a area 0への針刺入
  b PSIS下方ブロックの限界とリスク
 7.ブロック針が進まないとき
  a 針が進まない原因
  b 針を進めるコツ
 8.針の深さ、薬剤の使用量・注入速度、ブロック後の評価
  a ブロック針の深さ
  b 局所麻酔薬の注入量
  c 局所麻酔薬の注入速度
  d ブロックのコツ
  e ブロック後の評価
 9.手順のまとめ
  a 立位前屈位
  b PSISの同定
  c ブロック針の刺入
  d 局所麻酔薬の注入
  e ブロック後の評価
[B.TV透視下ブロック]
 1.使用物品
 2.区画の設定
 3.手順
 4.局所麻酔薬の注入量
 5.ブロック針の深さの確認
 6.ブロックの実際
  a area2へのブロック
  b area3へのブロック
  c area1へのブロック
  d area0へのブロック
 7.各区画の関連痛域
 8.効果の判定
 9.ブロック後の経過
  COLUMN 後方靱帯へのブロックは安全!
  COLUMN ブロック針の到達経路
  COLUMN 超音波ガイド下ブロック法
  COLUMN TV透視下ブロック施行時の局所麻酔薬の注入速度
  COLUMN area1へのブロックのコツ
  COLUMN 4区画からの関連痛域の要約
  COLUMN ブロック効果の聞き方
  COLUMN ベッドサイドとTV透視下ブロックで仙腸関節の痛みの診断が可能!

7章 機能改善と予防法
 1.骨盤の性差
 2.仙腸関節機能の改善に有効な道具
  a 骨盤ゴムベルト
  b バランスボール
  c フレックスクッション
  d あぐら座クッション
 3.仙腸関節障害の予防
  a 仙腸関節障害予防のポイント
  b 生理歩行
  c 腰椎安定化運動
  d 開脚上下体操
  COLUMN 生活様式が女性の骨盤に影響
  COLUMN バランスボールの効用
  COLUMN 病態別のリハビリが必要

8章 画像で診断できない腰痛の悲劇:症例の呈示
  症例1 腰椎後方椎体間固定術(PLIF)が行われる寸前であった仙腸関節障害
  症例2 鼡径部痛を主訴とした仙腸関節障害
  症例3 仙腸関節ブロックで鼡径部痛が軽快した変形性股関節症
  症例4 人工股関節全置換術(THA)後に生じた仙腸関節障害
  症例5 腰椎椎間板ヘルニアに合併した仙腸関節障害
  症例6 腰部脊柱管狭窄症の術後に発症した仙腸関節障害
  症例7 腰椎椎間板ヘルニアの摘出術で症状が消失した仙腸関節障害
  症例8 腰椎固定術後に発症した仙腸関節障害
  症例9 腰椎椎体間固定術後に内固定を抜去して軽快した仙腸関節障害
  症例10 胸腰椎移行部圧迫骨折後に生じた仙腸関節障害
  症例11 下肢の脱力で歩行困難を呈した仙腸関節障害
  症例12 身体表現性障害(心因性疼痛)との診断を下された仙腸関節障害
  症例13 詐病を疑われた仙腸関節障害
  COLUMN 仙腸関節ダム理論

9章 紹介
 1.仙腸関節セミナー
 2.腰痛・仙腸関節センター
 3.日本仙腸関節研究会
  COLUMN 研究会でのフリー・トーキング例

後記
索引

“MRIやCT検査で腰には何の異常もない"といわれる。しかし、椅子に座るとすぐ痛くなり、仰向けにすら寝られない。仕事ができず会社も休まざるを得ない。やがて会社の人間関係もギクシャクし、最後の砦であるはずの家族からも“本当に痛いの?"と疑われ、徐々に孤立。出口が見えない状況が続き、最終的にうつ状態に…。このような原因不明の腰痛に悩む“腰痛難民"の方々が全国には数多くおられるものと推測されます。
 著者が所属する仙台社会保険病院を受診する多くの仙腸関節の痛みの患者さんも、そのような経過をたどった方々です。ブロックの効果から、“あなたの痛みは仙腸関節からくる痛みですよ"と説明すると、それだけで悩みの半分は解決してしまいます。なかには、“どういう治療を希望しますか"と聞くと、“原因がわかればそれだけでいいです"という患者さんもおり、腰痛の原因がわからずに経過した苦悩の日々の重さを感じさせられます。
 仙腸関節の痛みは、MRIやCTなどの画像検査で明らかな異常が出ないために、なかなか診断がつかず、精神科や心療内科に紹介される患者さんが多いという悲劇を伴っています。著者は15年前から仙腸関節由来の痛みが腰痛のなかに紛れていることを知り、これまで1,000人を超す仙腸関節の痛みの患者さんを治療してきました。しかし、研究当初はほとんど動かない仙腸関節が痛みを出すとは考えられないとの意見が多数でした。そのようななか、仙腸関節の固定手術を行って社会復帰できた患者さんがいることを発表してから、診断のつかない腰痛のなかに仙腸関節由来の痛みが含まれているのではないかと考える医師が増えてきたように思います。2009年11月に日本仙腸関節研究会が発足し、2010年、2011年に開催された2回の学術集会を通して、関心を寄せる医師、医療スタッフが全国的に多くなってきていることを実感いたします。
 この痛みの存在を知っていただくためには、仙腸関節ブロックの効果を実際に経験していただくことが最も近道と考えます。そのためには、疾患の概念と仙腸関節ブロックの方法を具体的に述べた手引き書が必要と考え、私たちの方法を整理して紹介する書籍を出す決意をしました。
 本書は、“離島の診療所でも、本書を片手にブロックができる"というコンセプトのもと、特に診断とブロックの方法を詳細に紹介した、明日からの診療に役立つ実践書を目指しました。
 本書が原因を特定できない腰痛で悩む患者さんを治療している医師の方々の仙腸関節の痛みの理解に役立ち、全国の地で仙腸関節ブロックが行われる日が来ることを心から念願しております。
2012年2月
村上栄一

従来より仙腸関節はほかの関節に比較して動きが少なく、外傷・変性などが少ないとされてきた。その障害の主なものとしては骨盤骨折などの外傷、出産後、あるいは強直性脊椎炎などに代表される炎症性のものが知られていた。本書は仙腸関節特有の解剖学的構造に注目して、これらの疾患だけでなく、腰痛などの一般的な痛みの原因として仙腸関節障害を紹介した著書である。まずは、仙腸関節障害に関するこのような成書をまとめあげられた村上栄一先生に心より敬意を表したい。本書を一読すれば、仙腸関節障害の見逃しがいかに多かったのかに気づくであろう。
 第2章「仙腸関節の基礎」では、仙腸関節のバイオメカニクスについて詳細に述べられ、仙腸関節の知られざる機能が科学的に示されている。従来は体重を支える機能が主たるものであり、ほとんど動きのない関節と理解されていた仙腸関節が、人間の体幹のショックアブソーバの役割をはたしているという説は納得できる面が多い。また、仙腸関節の後方部分に侵害受容器が存在することから、関節後方部の靱帯領域が痛みの発生源になると述べられている。
 第3章「仙腸関節の痛みの病態」では、仙腸関節障害の概念について述べられている。痛みは最近の整形外科領域のトピックスである。仙腸関節も侵害受容性疼痛の原因となると述べられているが、慢性疼痛の範疇に入ると腰部脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニアなどのほかの疾患と同様に、神経障害性疼痛の要素も関係するのではないかと推測される。
 第4章「仙腸関節の痛みの診断」では、仙腸関節障害の診断法の実際について詳細に述べられている。本症を考えるうえでもっとも重要なことは確実な診断である。著者の紹介する指差し法“one finger test”は、疼痛部位の局在を明らかにする点において簡便で優れた診断手技である。また仙腸関節障害の診断基準あるいはスコアリングについても述べられてはいるが、現時点では腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、あるいは変形性股関節症などによる臨床症状との鑑別が困難といわざるをえない。今後の症例の増加によりこれらの診断基準、スコアリングがより洗練されたものになることを期待したい。「鑑別診断」の節では腰椎疾患だけでなく、臨床上見逃してはならない癌の転移、化膿性脊椎炎などもあげられており、プライマリケアを担う臨床医にとっては有益な情報が盛り込まれている。
 治療に関しては第5章以降に詳細に記載されている。従来、仙腸関節障害に対するブロック治療の有用性は広く認識されてはいたが、確実な関節腔への薬液注入が技術的に困難であったため、本症に対するブロック治療が普及せず、ひいては疾患の認識を困難とさせてきたのも事実である。第6章でその詳細が紹介されている後方からのブロック手技は技術的にも簡単であり、本症に対する治療が格段に容易となるであろう。手術的治療に関してはいまだに論議の分かれるところであるが、腰椎疾患、股関節疾患などのほかの疾患との十分な鑑別がなされ、保存的治療に抵抗性であり、かつ心因的要素を除外できた限られた症例に対して適応されるべきである。
 今まで血清反応陰性脊椎関節症(SNSA)として炎症性の仙腸関節障害は注目されていたが、本書を読むと、関節の微小な「ずれ」のため生じる関節障害により臨床症状をきたす場合もありうることを理解させられる。著者の述べる関節のずれにより生じるとされる仙腸関節障害はMRI、CTなどの現在の画像診断技術ではとらえきれないとされるが、近い将来この仙腸関節障害の診断を可能とする画像診断法あるいは機能診断法が開発されることを期待したい。
 腰痛、下肢痛などで原因が特定できずにいた症例の中には、このような仙腸関節障害の患者が相当数含まれている可能性もある。著者が本文中で述べているように誤った診断、不必要な手術を減らすためにも仙腸関節障害の理解が必要となる。臨床上、仙腸関節にも注意を払うことは重要である。しかし骨盤・脊椎の器質的疾患を見逃さないことも肝要である。本書は臨床医にとって有益な情報をもたらすだけでなく、仙腸関節障害で苦しんでいる患者にとっても福音となるであろう。
評者● 田中信弘
整形外科63巻9号(2012年8月号)より転載