書籍

医の倫理と法改訂第2版

その基礎知識

: 森岡恭彦
ISBN : 978-4-524-26327-1
発行年月 : 2010年5月
判型 : A5
ページ数 : 126

在庫あり

定価1,944円(本体1,800円 + 税)

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

医療者が身に着けておくべき医療倫理を平易かつ明快に解説した好評書の改訂版。近年とくに複雑化・問題化している医師の職業倫理、終末期の生命倫理、先端医療の生命倫理等につき、現状の社会背景に即し改訂。複雑難解な倫理問題が最近の身近な事例を基にした解説で分かりやすい。倫理問題の解決、倫理的判断に格好の手引き書。

第1章 医の倫理の基本的事項
 1 医の倫理とその基盤
 2 20世紀後半における医の倫理についての変革
 3 医の倫理の基盤―今日のキーワード
 4 医の倫理規定と倫理の実践

第2章 医師の職業倫理
 1 日常の診療においての医師の一般的責務
 2 法律で定められた医師及び医療機関の業務上の義務
 3 医師及び医療機関の業務上の責務

第3章 終末期患者の医療
 1 単なる延命治療より患者の生活・生命の質(QOL)の尊重
 2 回復の見込みのない終末期患者に対する延命治療の差し控えと中止の問題点
 3 患者の意思の確認
 4 蘇生禁止の指示(DNR-order)
 5 終末期患者に対するケア、ターミナルケア
 6 安楽死(積極的安楽死)

第4章 生殖医療の倫理的問題
 1 生殖医療の倫理的問題の特徴
 2 人(ヒト)の生命はいつ始まるのか?
 3 避妊(受胎調節)、男女の産み分け
 4 人工妊娠中絶
 5 出生前診断、着床前診断
 6 不妊症の治療についての倫理的問題
 7 胎児の減数手術
 8 ヒトに関するクローン技術
 9 胚性幹細胞(ES細胞)
 10 その他の生殖医療の問題
 11 生殖医療の倫理についてのまとめ
 12 わが国の現状における基本的考え

第5章 医学研究の倫理
 1 動物実験
 2 ヒト(人間)を対象とする医学的実験
 3 利益相反(COI)
 4 研究発表の倫理

第6章 医の倫理―現在の課題
 1 医療における患者の自己決定権、契約としての医療と医師の奉仕精神
 2 先端的医療と医の倫理その危機

付録1:ヒポクラテスの誓い
付録2:ヘルシンキ宣言

参考図書
あとがき
索引

最近医の倫理ということが強く叫ばれるようになってきた。
 そもそもわが国では一昔前には医の倫理については具体的な問題について深く考える人も少なく、またそれで済まされてきた。しかし最近では科学、医学が進歩しその力が増大するにつれて社会に大きな影響を及ぼすようになり、また医学や医療についても国際化が進行してきたこともあって、わが国でも医の倫理が見直され、またこの問題は重要な課題になってきた。
 「医の倫理」といっても「生命倫理」から「医師の職業倫理」まで広範囲の問題を含んでおり、全体を理解することが難しい。また日々臨床に従事している人たちは業務に忙しく倫理の問題を熱心に勉強する余裕もないこともあって、このような問題に関心を持ち発言する人も少ないのが現状である。このような状況で今日幾つかの医の倫理についての書も出版されているが、臨床に携わっている人たちにとっては物足りなさを感じられていることと思われる
 このような状況判断から、本書では一般の医師、また医学生や看護師などの医療従事者の人たちが知っておくべき「医の倫理」についての基本的事項をわかりやすく簡明に解説することを目的とした。もちろん、倫理は各自の自覚に基づくもので、医療に従事する人たちは医療においてどんな倫理問題があるかを日頃から勉学し、実地において自らが判断をして行動しなければならないことは当然のことで、本書がその一助になれば幸いである。
 なお初版よりすでに6年近くが経ち、その間、倫理の問題にもいろいろの変化があり、今回はできるだけ初版の文章を残し、内容の改訂、付加に努めたが、問題は多岐にわたっており、なお十分といえない。この点、読者の皆様のご指摘をいただければ幸いである。
2010年4月
日本赤十字社医療センター名誉院長
東京大学名誉教授
自治医科大学名誉教授
森岡恭彦

本書は初版が2004年に発刊され、今までわれわれ臨床医にとってあまり関心のなかった「生命倫理」から「医師の職業倫理」までわかりやすく解説されているため好評で、今回、倫理の問題でいろいろ変化があったため、改訂第2版が発刊された。著者の森岡先生(東大および自治医大名誉教授)は、2004年日本医師会が出版した『医師の職業倫理指針』作成にも中心的な役割をはたされている。医事紛争が増加している現在、医師だけでなく、医療に従事しているすべての人たちが知っておくべき「医の倫理」についての基本的事項が、簡明でわかりやすく解説されている。現在の医療は患者中心のものとなり、従来のようなパターナリズムでは、患者の自己決定権侵害やインフォームド・コンセントの履行義務違反として、患者サイドから訴訟されるようになっている。したがって本書で解説されている医の倫理についての変革、特に患者の人権の擁護や患者中心の医療、個人情報保護などは熟読に値する。
 第1章「医の倫理の基本的事項」は初版とほとんどかわっていないが、本章に記載されている内容を十分に理解していれば、医事紛争の多くは起こらないのではないかと思われる。1960年代の後半に世界各国で反体制運動が起こり、公民権の要求、女性解放運動などが活発化していく中で、アメリカを中心として、医療における患者の人権の擁護が叫ばれるようになった。一般の医療においても患者の人権の擁護、自由な意思に基づく同意が必要であるとするもので、それにはインフォームド・コンセントが医療の原則として尊重されるべきであるというわけである。わが国でもこれを「説明と同意」と訳し、「医師と患者の信頼関係を築くうえで必要な原則」とされた。
 第2章「医師の職業倫理」で、この説明すべきこととして、実際の最高裁判所の判例から、医師の患者に対する説明(情報の提供)責務として、(1)患者の病名や症状、(2)行う検査や治療の目的・内容、(3)それにより予想される結果やそれに伴う危険性、(4)予想される医療行為以外に方法があるか否か、(5)検査や治療を受けないことで起こりうる結果などについて十分に説明すべきである(最3小判平13.11.27)と記述されている。これらの説明をしたうえで、患者に決定させるべきであるというのが現在の医療である。本章ではこれら医師および医療機関の患者に対する業務上の責務として、個人情報の開示について、今回新たに記載されている。2005年4月に「個人情報の保護に関する法律」が施行され、医療の世界でも、患者の情報の保護または逆に患者情報の開示などについて論議されるようになった。研究などに利用しないとか、他人に漏洩しないなど医療施設の管理者の責任が重大となってきた。ほかに本章では医師個人の責務として、医師法における医師の業務規定、守秘義務、医療法などについても説明されている。医師法に違反すると刑事罰の対象になるため、十分な注意が必要である。
 第3章「終末期患者の医療」では、初版よりかなり追加され、脳死判定基準に関して詳しく説明されている。また臓器提供者の人権の擁護問題や臓器提供の公正性についても触れられている。さらに今回の改訂版でもっともかわったのは、終末期患者の延命治療の問題である。アメリカのカリフォルニア州で1976年「自然死法」が可決され、その後アメリカ各州で同様の法案が可決され、本人の事前の意思表示があれば、末期の患者の延命治療差し控えや中止が法律で罰せられないことになってから、このような傾向は世界各国に広がり、医師は従来からの倫理観をかえざるをえなくなってきた。この終末期患者に対する延命治療の差し控え、ないしは中止に関するわが国の現況や、2007年厚労省のガイドライン、安楽死に関して最高裁まで争われた判例(2009年)などについて詳記されているので、本書を購入してお読みいただきたい。終末期とか回復の見込みがないということを医師が確実に診断できるのかという問題が残る。家族の心情、医療チームとしての判断、厚労省のガイドラインなどを参考に、慎重に判断されるべき問題かと思われる。
 第4章「生殖医療の倫理的問題」では、最近注目されているES細胞やiPS細胞について、その他人工授精など日本産科婦人科学会の最近の会告についても記載されている。
 初版の書評でも書かせていただいたが、われわれ整形外科医は臨床および研究を行ううえで今一度、医の倫理の基本的な問題をわかりやすく解説された本書を読み、日常気づいていない倫理上の根本的な問題を再認識して、患者から信頼される医師になっていただければと思う。
評者● 梁瀬義章
臨床雑誌整形外科62巻3号(2011年3月号)より転載

昨今の医療関連の報道にみられるように、医療現場を取り囲む状況はますます複雑化している。そのため、医療現場に身を置く医師は、以前であれば臨床医学の技術や知識に優れていれば事足りていたものが、臨床医学以外の技術や知識なども必要とされるようになってきている。臨床医学以外の技術の代表として、医療現場におけるコミュニケーション能力の重要性が指摘されるようになっており、医学教育や現場の研修でもコミュニケーション技術が取り上げられるようになっている。しかしながら、必要な知識の代表である医療に関する倫理や法やガイドラインに関しては、十分な教育が提供されていないのが現状である。現場に従事している医師にとって、倫理や法やガイドラインといったものは、その知識の必要性は感じているものの、実際に学ぶ機会が存在しない。そのため、自分の専門領域に関係したガイドラインの知識のみを有するにとどまっているのが、一般的な医師の姿ではないだろうか。
 さて、本書は表題にあるように、医学における倫理と法の基礎知識について解説された入門書である。本書は、臨床医であると同時に、医師の職業倫理指針の作成などに携わってきた著者の手によるものであるところに特徴がある。このような医療倫理や法律に関する入門書は、倫理学者や法学者などによる優れた類書が存在するが、内容が網羅的すぎたり、学術的記述に偏りすぎたりすることがみられる。医師は多忙な臨床の傍ら、自らの専門分野に関する専門書や文献を読む必要があるため、なかなかこのような入門書を通読することは、時間的にむずかしい。その点、本書は、著者が現場を知る医師であるため、読者が現場で多忙を極める医師であることを十分に理解したうえで、本当に現場の医師が知りたいこと、つまり現場において職務を全うするために必要な知識が、過不足なく記載されている。
 とくに、第2章「医師の職業倫理」に代表されるように、医師に必要な義務を倫理的観点と法的観点から簡潔かつ具体的に述べられている点は素晴らしく、現場の医師にとって非常に役に立つものである。また、現場でよく問題になる終末期医療に関して、第3章において1章分を割いて解説がされている。ここでも学術的な記述や議論に終始することなく、明日にでも終末期医療に携わらなければならない医師にとって必要な知識と、わが国の現状に関して、簡潔に記載されていることに共感を覚える。さらには、「K協同病院事件」や「緊急事態における診療(良きサマリア人法)」のような、われわれ医師にとって耳目を引く事柄についてコラムにて簡潔に解説されている点も、本書を興味深いものにしている。
 わずか本文100頁余りの中に、現場の医師が知っておくべき倫理、法、ガイドラインに関してバランスよく記載されている本書は、まさに医師のための倫理と法の入門書といえる。複雑化する医療現場に対応するためにも、多忙な臨床の合間に時間をみつけて本書を通読することをお薦めしたい。
評者● 瀧本禎之
臨床雑誌内科107巻1号(2011年1月号)より転載