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日本消化器病学会ガイドライン

肝硬変診療ガイドライン

こちらの商品は改訂版・新版がございます。

編集 : 日本消化器病学会
ISBN : 978-4-524-26223-6
発行年月 : 2010年4月
判型 : B5
ページ数 : 236

在庫なし

定価3,300円(本体3,000円 + 税)

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文

日本消化器病学会編集による、エビデンスに基づいたオフィシャルな診療ガイドライン。肝硬変に関わる厖大な文献を吟味し、診療する上で問題となるクリニカルクエスチョン(CQ)に対して、推奨グレードとエビデンスレベルを明記して診療の指針を示す。肝硬変の疫学、病態、診断、予後、合併症がわかる。

クリニカルクエスチョン一覧
1.診断
(1)身体所見
 CQ1-01 身体所見から肝硬変の診断は可能か?
(2)一般血液検査
 CQ1-02 血液生化学的検査所見から肝硬変の診断は可能か?
(3)画像検査
 CQ1-03 画像診断は肝硬変の診断に有用か?
(4)腹腔鏡・肝生検
 CQ1-04 肝生検組織所見(腹腔鏡および針生検)は肝硬変の診断に有用か?

2.治療
(1)栄養療法
 CQ2-01 肝硬変患者の低栄養状態は予後に影響を与えるか?
 CQ2-02 肝硬変に対する就寝前エネルギー投与(lateeveningsnack:LES)は予後を改善するか?
 CQ2-03 肝硬変患者の低アルブミン血症に対する分岐鎖アミノ酸(BCAA)製剤投与は有効か?
 CQ2-04 肝硬変に対するBCAA製剤投与は予後やQOLを改善するか?
 CQ2-05 肝硬変の耐糖能異常は病態に影響を与えるか?
(2)抗ウイルス療法
 CQ2-06 B型肝硬変においてHbe抗原、Hbe抗体検査は病態のモニターに有用か?
 CQ2-07 ラミブジンはB型肝硬変におけるウイルスの陰性化、あるいはセロコンバージョンを促進するか?
 CQ2-08 ラミブジンはB型肝硬変の肝線維化を改善するか?
 CQ2-09 ラミブジンはB型非代償性肝硬変の予後を改善するか?
 CQ2-10 ラミブジンはB型肝硬変の肝発癌を抑制するか?
 CQ2-11 ラミブジン耐性B型肝硬変にアデフォビルの追加投与は有効か?
 CQ2-12 アデフォビル治療、エンテカビル治療はB型肝硬変に有効か?
 CQ2-13 インターフェロンはB型肝硬変のウイルスの陰性化、あるいはセロコンバージョンを促進するか?
 CQ2-14 インターフェロンはB型肝硬変の肝線維化を改善するか?
 CQ2-15 インターフェロンはB型肝硬変の肝発癌を抑制するか?
 CQ2-16 C型肝硬変におけるインターフェロン療法の治療効果は慢性肝炎と同等か?
 CQ2-17 インターフェロン療法後SVRが得られたC型肝硬変では線維化が改善するか?
 CQ2-18 C型肝硬変に対するインターフェロン療法は、有害事象を誘発し予後に悪影響を与えないか?
 CQ2-19 C型肝硬変に対するインターフェロン療法は、肝癌を抑制し予後を改善するか?
 CQ2-20 初回インターフェロン療法が無効であったC型肝硬変に対し、ペグインターフェロン、リバビリン併用療法は有効か?
 CQ2-21 血小板減少を伴うC型肝硬変に対し、脾摘または部分的脾塞栓術(PSE)後のインターフェロン療法は有効か? また費用対効果はどうか?
(3)肝庇護療法など
 CQ2-22 抗ウイルス療法以外にウイルス性肝硬変の肝線維化を抑制する治療法はあるか?
(4)非ウイルス性肝硬変の治療
 CQ2-23 アルコール性肝硬変では禁酒により線維化が改善するか?
 CQ2-24 アルコール性肝硬変では禁酒により進展が阻止され、予後が改善するか?
 CQ2-25 自己免疫性肝炎(AIH)による肝硬変に対して副腎皮質ホルモンを投与すると線維化が改善するか?
 CQ2-26 AIHによる肝硬変にステロイドを投与すると予後は改善するか?
 CQ2-27 原発性胆汁性肝硬変(PBC)による肝硬変にUDCAを投与することで線維化の進展抑制効果が得られるか?
 CQ2-28 PBCによる肝硬変に対するUDCAあるいは副腎皮質ステロイド投与は予後を改善させるか?
 CQ2-29 原発性硬化性胆管炎(PSC)による肝硬変にステロイドを投与すると予後は改善するか?

3.肝硬変合併症の診断・治療
(1)消化管出血、門脈圧亢進症
 CQ3-01 門脈圧亢進症の診断に腹部CT(MDCT)は有用か?
 CQ3-02 門脈圧亢進症の診断に腹部MRI、MRAは有用か?
 CQ3-03 123I-IMP経直腸門脈シンチグラフィは門脈大循環シャントの程度の診断に有用か?
 CQ3-04 99mTc-GSA肝シンチグラフィ(アシアロシンチ)は門脈圧亢進症の評価に有用か?
 CQ3-05 発赤所見(Rcsign)は食道・胃静脈瘤破裂の危険因子であるか?
 CQ3-06 βブロッカーは食道・胃静脈瘤に対して有効な治療法となりうるか?
 CQ3-07 βブロッカーと一硝酸イソソルバイドの併用は静脈瘤出血予防や予後改善に有効か?
 CQ3-08 バソプレッシン、オクトレオチド、一硝酸イソソルバイドは静脈瘤破裂時に有効か?
 CQ3-09 バソプレッシンV1受容体アゴニストのterlipressinは静脈瘤破裂時に有効か?
 CQ3-10 食道・胃静脈瘤破裂時のバルーンタンポナーデ(S-Btube、止血用胃バルーン)挿入は有効か?
 CQ3-11 βブロッカーは門脈圧亢進症性胃症(PHG)に対して有効な治療法となりうるか?
 CQ3-12 プロトンポンプ阻害薬(PPI)投与により肝硬変患者の消化管出血を予防できるか?
 CQ3-13 食道静脈瘤に対する予防的EVLとEISではどちらが予後を改善するか?
 CQ3-14 食道静脈瘤破裂に対して経皮経肝門脈塞栓術(PTO)は有効か?
 CQ3-15 胃静脈瘤破裂に対してcyanoacrylate系薬剤注入法は有効か?
 CQ3-16 経頸静脈肝内門脈大循環シャント術(TIPS)は難治性食道静脈瘤に対する治療法として有効か?
 CQ3-17 脾動脈塞栓術(PSE)は難治性食道静脈瘤に対する治療法として有効か?
(2)腹水
 CQ3-18 血清と腹水のアルブミン濃度差は肝硬変腹水診断に有用か?
 CQ3-19 腹水の好中球数算定は特発性細菌性腹膜炎の迅速診断に有用か?
 CQ3-20 白血球エステラーゼ試験紙は特発性細菌性腹膜炎の迅速診断に有用か?
 CQ3-21 肝硬変に伴う腹水に対して減塩食は有効か?
 CQ3-22 肝硬変に伴う腹水にアルブミン投与は有効か?
 CQ3-23 肝硬変の腹水に対してループ利尿薬はスピロノラクトンより有効か?
 CQ3-24 利尿薬投与法としてスピロノラクトン単剤増量法とスピロノラクトン、ループ利尿薬併用増量法のどちらがよいか?
 CQ3-25 バソプレッシンV2受容体拮抗薬は腹水、水排泄障害の改善に有効か?
 CQ3-26 難治性腹水に対する大量腹水穿刺排液は有効か?
 CQ3-27 難治性腹水に対する大量腹水穿刺排液で患者の予後は改善するか?
 CQ3-28 腹水穿刺排液の際の血漿増量剤としてアルブミン静注と合成コロイドのどちらが勝るか?
 CQ3-29 難治性腹水の治療に腹膜・頸静脈シャント(P-Vシャント)は有効か?
 CQ3-30 難治性腹水に対して腹水濾過濃縮再静注は有効な治療法か?
 CQ3-31 経頸静脈肝内門脈大循環シャント術(TIPS)は難治性腹水に有効な治療法か?
 CQ3-32 難治性腹水に対するTIPSにより患者の予後は改善するか?
 CQ3-33 難治性腹水の治療後の生存率やQOLはTIPSと大量腹水穿刺排液のどちらが勝るか?
 CQ3-34 難治性腹水例の治療後の生存率やQOLはTIPSとP-Vシャントのどちらが勝るか?
 CQ3-35 肝硬変患者の経過中に特発性細菌性腹膜炎(SBP)が合併すると予後不良となるか?
 CQ3-36 SBPに対する腸管滅菌は予後を改善するか?
 CQ3-37 SBPの既往のある患者に抗菌薬の予防投与を行うことで再発を予防できるか?
 CQ3-38 SBPの既往のある患者に抗菌薬の予防的経口投与を行うことで予後は改善するか? また医療経済学的効果はあるか?
(3)肝腎症候群
 CQ3-39 超音波ドプラによる腎血管抵抗指数の測定は肝腎症候群の診断に有用か?
 CQ3-40 肝腎症候群に対してterlipressinは有効な治療法であるか?
 CQ3-41 肝腎症候群に対してα交感神経作動薬ミドドリンとオクトレオチドの併用は有効な治療法であるか?
 CQ3-42 肝腎症候群に対してP-Vシャントは有効な治療法であるか?
 CQ3-43 肝腎症候群に対してTIPSは有効な治療法であるか?
 CQ3-44 肝移植は肝腎症候群の予後を改善するか?
(4)肝性脳症
 CQ3-45 脳症のコントロールにより肝硬変の予後は改善するか?
 CQ3-46 便通は肝性脳症の発症に相関があるか?
 CQ3-47 肝性脳症の患者が低蛋白食を摂取することで予後は改善するか?
 CQ3-48 肝性脳症に対して合成二糖類は有効か?
 CQ3-49 腸管非吸収性抗菌薬投与は肝性脳症を改善するか?
 CQ3-50 肝性脳症の意識障害に対して分岐鎖アミノ酸(BCAA)輸液製剤の投与は有効か?
 CQ3-51 BCAA製剤の投与は肝性脳症の予後改善に有効か?
 CQ3-52 肝性脳症に対して亜鉛製剤は有効か?

4.予後予測
 CQ4-01 CTP分類は肝硬変の予後予測、重症度判定に有用か?
 CQ4-02 MELDスコアは肝硬変の予後予測に有用か?
 CQ4-03 肥満は肝硬変の予後に影響を及ぼすか?
 CQ4-04 肝肺症候群は肝硬変の予後に影響を与えるか?
 CQ4-05 門脈血栓症は肝硬変の予後を左右する重要な因子か?

5.肝移植
 CQ5-01 肝移植は非代償性肝硬変の生存率を高めるか?
 CQ5-02 MELDスコアが高い患者は肝移植後の予後が悪いか?
 CQ5-03 CTP分類の高い患者は肝移植後の予後が悪いか?
 CQ5-04 抗ウイルス療法は肝移植後の治療に不可欠か?
 CQ5-05 ウイルス性肝硬変に対する肝移植は医療経済上、メリットがあるのか?
 CQ5-06 非ウイルス性肝硬変に対する肝移植はウイルス性肝硬変に比して成績がよいか?
 CQ5-07 自己免疫性肝炎(AIH)による肝硬変に対する肝移植後の再発は多いか?
 CQ5-08 原発性胆汁性肝硬変(PBC)による肝硬変に対する肝移植後の再発は多いか?
 CQ5-09 原発性硬化性胆管炎(PSC)による肝硬変に対する肝移植後の再発は多いか?

これまで肝硬変全体の診療ガイドラインはわが国ではもちろんのこと、欧米でも作成されていない。肝硬変は原因が多様で、病態は複雑多岐にわたり、進行期には肝臓以外の全身諸臓器にもさまざまな影響が及ぶことから、欧米のガイドラインも個々の合併症を対象にした極めて限定的なものばかりである。日本消化器病学会におけるガイドライン作成の基本方針は系統的な文献検索をルールに則って行い、文献データベースをフォーマットに従って準備したうえで、エビデンスレベルの高いものをもとに推奨文(recommendation)をまとめるというものである。エビデンスレベルの高さは同時対照をおいたランダム化対照試験(RCT)の成績の累積ではじめて担保されるものではあるが、多彩な合併症の出現する末期肝硬変は極めて致死率の高い病態であり、医療サイドから生死をかけたRCTへの参加を患者、家族に要請するのは極めて困難な状況にある。米国肝臓学会(AASLD)の肝腎症候群ガイドラインにおいてもこの点は指摘されており、臨床治験の土壌が欧米ほどには整っていないわが国においてこの問題はさらに大きいと言わざるを得ない。
 本ガイドライン作成に先立つ平成16年度には厚生労働科学研究費補助金肝炎等克服緊急対策研究事業「末期肝硬変に対する治療に関する研究」(主任研究者:慶應義塾大学石井裕正教授)において診療ガイドラインの作成が始められており、当時の班員の多くが本ガイドライン作成委員会にも加わったことから、これを継承する形で作業を開始した。すなわち、石井班での80問のクリニカルクエスチョン(CQ)を基礎にして、肝硬変の診断と治療に関するさまざまな問題について体系的に文献検索を進めるために、新たな領域を追加して全体の構成を検討した。次に各委員の分担を決定し、それぞれがCQを準備したうえで討論を重ね、2006年12月までに肝硬変の診断、治療の全領域にわたるCQとして192問を確定した。当初、CQが多すぎるという批判もあったが、まず網羅的に調べ上げて最終的に短くまとめる方針で作業を開始し、根幹として非侵襲的な診断法、進展予防、発癌予防、合併症とその対策、肝移植と再生医療は盛り込みたいと考えた。
 2007年度までに10名の作成委員が分担してデータベースの作成にあたったが、この作業中に該当文献が全くないCQは削除することとし、文献の吟味と総括の過程でさらにCQの改変と統合を加えた。わが国で得られたエビデンスを最大限取り入れたいと意図しながらもわが国でのRCTがほとんどないという現実はいかんともしがたく、欧米で得られたエビデンスをわが国の実状に合わせて読み替える作業が続いた。最終的にCQは99問とし、これらに対するステートメント、補助的な解説、推奨文を追加して、評価委員会に諮ったのちにようやく全文を完成させることができた。
 本ガイドラインの刊行にあたり作成委員は3つの点に留意した。すなわち、(1)一般臨床医に治療指針を提供できる、(2)基盤としたエビデンスを伝えられる、(3)科学的方法にのっとっていることを明示できる、という3点である。一般臨床医に治療指針を提供できるためにはまず、推奨を読みつないで行けば基本的な診療ができるようにすること、読みやすい概説をつけること、診療の進め方のアルゴリズムを随所に入れることに努めた。また、基盤としたエビデンスを示すためには検索論文の内容について簡単なまとめを作り、用いた文献ごとにエビデンスレベルを明示した。さらに、科学的方法にのっとっていることはCQごとに解答、検索式、検索論文数、採用論文数を記載することで証明できたと考える。
 ともあれ、内容、形式ともに試行錯誤の産物であり、いまだ不十分な点、不備な点が多々あろうかと思うが、このガイドラインが日常の肝硬変診療に少しでも役立ち、患者、家族の方々に向けたガイドライン作成への足がかりになればと願っている。本ガイドライン作成にご協力いただいた関係各位に深謝し、結びとしたい。
2010年2月
日本消化器病学会肝硬変診療ガイドライン作成委員長
福井 博

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