書籍

やさしいエビデンスの読み方・使い方

臨床統計学からEBMの真実を読む

: 能登洋
ISBN : 978-4-524-26208-3
発行年月 : 2010年5月
判型 : A5
ページ数 : 200

在庫僅少

定価3,024円(本体2,800円 + 税)

正誤表

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

エビデンスが重視される現在の医療において、臨床統計学の知識を活用し、エビデンスの意味するところを正しく読み取り・実地医療に活用するための実践書。専門的知識がなくても、臨床統計学の要点がわかり、エビデンスを読み解く力が身につく。多くの実際例を示し、やさしくわかりやすい解説でスラスラ読み進められる。すべての臨床医必携の一冊。

I章 総論−EBM・臨床統計学とは
1 Evidence-Based Medicine(EBM)
 A EBMとは
 B EBMの注意点
 C EBMの活用法
 D EBMの実践手順
  STEP1 臨床問題の定式化
  STEP2 エビデンス検索
  STEP3 エビデンスの批評
  STEP4 実際の患者への適用(統合的臨床判断)
  STEP5 STEP1-STEP4の評価・フィードバック

2 EBM実践に役立つ臨床統計学
 A 臨床統計学の目的と意義
  1 不確実な現実
  2 臨床統計学の目的と意義とは
  3 誤差
  4 バイアス
 B 統計学の種類
  1 記述統計
  2 推測統計
 C 臨床研究
  1 目的
  2 手順
  3 仮説
  4 方法
  5 デザイン
  6 妥当性の水準
 D アウトカム
  1 評価項目
  2 一次エンドポイントと二次エンドポイント
  3 複合エンドポイント
  4 ハードエンドポイントとソフトエンドポイント
 E データの種類
  1 3種類のデータ
  2 計量データの表記法
 F 統計学的推測
  1 推定
  2 検定
  3 有意差
  4 信頼区間とp値の使い分け
  5 検定法
まとめ

II章 診断・スクリーニング編
 A 検査値の誤差
 B 基準値と正常値
 C 誤診の指標
  1 カットオフ値(診断判定値)
  2 感度・特異度
  3 尤度比
  4 検査の評価と選択法
  5 感度・特異度・尤度比の検定
 D カットオフ値・ROC曲線
  1 カットオフ値と誤診の関係
  2 ROC曲線
  3 新マーカーの付加価値
 E 的中度
  1 特異度と的中度
  2 有病率と的中度
 F スクリーニング検査・検診の臨床的価値は?
 G エビデンスの読み方・使い方
 H エビデンスの読み方・使い方の実例
  1 カプセル内視鏡の診断特性
  2 メタボリックシンドロームの腹囲基準
  3 遺伝子診断による糖尿病予測
まとめ

III章 関連性編−リスク・予後・相関
 A リスクの評価
  1 リスクとリスクファクター
  2 交絡因子
  3 リスクの比較
  4 リスクの検定
 B トレンド
  1 トレンド解析
  2 トレンドの検定法
 C 相関と回帰
  1 相関と回帰とは
  2 相関係数
  3 回帰分析
 D 因果
 E エビデンスの読み方・使い方
 F エビデンスの読み方・使い方の実例
  1 低血糖による認知症のリスク
  2 CRP値による心血管疾患予測
  3 腹囲と内臓脂肪量の相関
まとめ

IV章 治療・予防編
 A 妥当性の向上と維持
  1 無作為化比較試験
  2 PROBE法
 B 信頼性の確保
 C intention-to-treat(ITT)解析
 D 治療効果の指標
  1 リスク
  2 代用エンドポイント
  3 グラフの読み方
  4 二次エンドポイント
  5 サブグループ解析
  6 後付け解析
 E 治療効果の検定
  1 検定法
  2 優越性検定と非劣性検定
 F エビデンスの読み方・使い方
 G エビデンスの読み方・使い方の実例
  1 EPA投与による冠動脈疾患発症予防効果
  2 チアゾリジン薬投与による心血管疾患予防効果
まとめ

V章 診療ガイドライン編
 A 診療ガイドラインとは
  1 診療ガイドライン
  2 診療ガイドラインの強制力
  3 診療ガイドラインでのエビデンス・推奨内容の分類
  4 「エビデンスに基づいた」診療ガイドラインの罠
 B 診療ガイドラインの読み方・使い方
  1 糖尿病診療ガイドライン
  2 CKD診療ガイドライン
まとめ

付録 エビデンスのチェックリスト、推薦図書
 A エビデンスの批評−診断・スクリーニング
 B エビデンスの批評−リスク・相関・因果
 C エビデンスの批評−予後
 D エビデンスの批評−治療・予防
 E エビデンスの批評−診療ガイドライン

推薦図書、エビデンス二次資料
索引

私がEvidence‐Based Medicine(EBM)に最初に出会ったのは、約15年前、米国に臨床研修留学をしたときでした。その後、数年してから日本でも着目され始めましたが、当初は誤解や拒絶反応が多かったため、私は自ら臨床の現場でEBMを実践し、教育啓発活動に力を入れてきました。現在では情報化社会の影響もあり、EBMという言葉が新聞にも登場するほど普及してきましたが、エビデンスの誤解・誤用は一向に減っていません。また、エビデンスを盲信して人為的な落とし穴に陥ったり、統計学的なトリックやごまかしにだまされたりすることが多々あります。これは、臨床医療の中心は患者であることが軽視されていたり、臨床統計学の有用性に関する教育が貧であったりするためです。医療の現実を見直すとともに、エビデンスの質を正しく評価することが求められています。
 本書では、医療の基本に立ち返って現実を見直し、「患者中心の医療実践のためのエビデンスの使いこなし方」という観点で、生活習慣病を中心としたエビデンスの正しい読み方と使い方を辛口ではありますが簡明に解説しました。統計学的事項に関してはコミュニケーション言語としてとらえ、数式を使わずに直感的な説明をすることで、「臨床医療と統計学の親密さ」が迷わずに理解できると同時に、エビデンスの批評眼が身につくように工夫してあります。
2010年4月
能登洋

中辛の味付けで基本事項がシャキッとアタマに入る本
 本書は初学者でも読みやすく、図も豊富で丁寧に解説された臨床疫学(EBM)基本事項の解説書である。“中辛の味付け”と表現したのは、本書で取り上げられているさまざまな事例についてである。内容のほとんどが糖尿病や脂質異常症といった、評者が専門としている臨床領域の研究の正統なEBM解釈を取り上げているからである。“長いものには巻かれろ”と搦め手で騙される左巻きの頭と違い、著者のタッチはあくまで冷静でcritical appraisalの真髄が光っている。“Excellent!”と思わず声をあげたら、隣の先生が横目でちらりと睨んだ。
 たとえば、最近話題になった大規模研究のうちでも、telmisartanに関するON TARGET試験の真にEBM的な解釈についての項目は、なるほどと合点した。
 ON TARGET試験は、ARBがACEIよりも冠動脈疾患予防に有効であるという仮説を立て優越性についての検討をしたもので、結果の判定に関してtelmisartan は ramiprilに効果が劣っていないと判断された(詳しくみるとramiprilが相対リスク1.01でわずかに優れている)。筆者はこの非劣勢検定の実際についてサッカーのワールドカップになぞらえて、ランキングの高いチームと対戦した場合、1点失点でも負けとは考えないという方式として紹介している(今回のワールドカップでの日本チームの活躍と重ねて考えると、観戦疲れで寝不足の頭でもすぐに理解できた)。
 また、臨床試験評価のうえで、プロトコル上の一時エンドポイントの評価が重要である点を、繰り返し強調していた。“二次エンドポイントは所詮仮説提唱のオマケであると考えよ”としており、一次エンドポイントで差がない場合に、二次エンドポイントで有意差のある部分が強調され、臨床研究の結果が誤解、誤用されて喧伝される危険性についても注意を喚起している。とかく、メーカーの宣伝パンフレットや講演会でのオーソリティの名演説に左右されやすい気質の者にとって、ショックの大きい言葉だった。その他にも日本のメタボリックシンドロームに関する診断基準の妥当性に関する事項など、氾濫する医学情報のため、つい盲信しそうな点について専門的に吟味を加えている。これらの事項について正当な立場からの批判的見解は、やぶ睨み的でなくきわめて爽やかなものである。
 能登先生は海外での臨床経験もあり、かつEBMの専門家、米国代謝内分泌学専門医という多才な先生で、長身で、やさしい語り口の方である。その人柄をうかがわせる本書は全体を通して平易な解説で、統計学的事項をあまり気にせずにスラスラと読み終えることができ、学生、研修医、コメディカルの皆様に広くお勧めしたい一冊である。
評者● 日吉徹
臨床雑誌内科106巻2号(2010年8月号)より転載

Evidence-based medicine(EBM)という言葉が医療関係者の間で広く用いられ、医学の世界で重要視されるようになってきている。EBMに基づいた診療が今後の臨床医学の根幹になることは、医療サイドのみならず、治療を受ける患者の側にも認知されつつある。ただし、このEBMという言葉のもとになっている「エビデンス」がどのようなプロセスを得てつくりあげられ、どのようなかたちで臨床医学に応用されるべきかについてのコンセンサスはいまだ得られていない。
 著者は日本および米国の臨床の現場において第一線の医師として活躍しながら、「エビデンス」というものがいかにして確立され利用されてきたかをさまざまな実務をとおして経験し、その重要性と限界についての明晰な見識を提示している。そして、豊富な知識を駆使して一般の臨床医にも理解しやすいように、糖尿病、高脂血症、メタボリックシンドロームなどの実例を採り上げながら、ともすれば臨床医が敬遠しがちな生物統計学の手法についてもわかりやすい言葉を用いてstep by stepで丁寧な解説を行っている。殊に日本におけるメタボリックシンドロームの診断基準になっている腹囲のカットオフ値について述べた、第2章、第3章の論旨の展開には目を見張るものがある。腹囲をもってメタボリックシンドロームの有無を判断する根拠になっている3段論法の妥当性についての論理の展開にはうなずかざるをえない。最近の厚生労働省研究班の解析でも、メタボリックシンドロームに関する腹囲基準に科学的根拠がないことは明らかになっている。このように得られたデータをどのように解析・解釈すれば正しいエビデンスに到達できるかについて、一般の医師でも知っておかなければならない重要なポイントが示されていることは高く評価をすべきであろう。
 EBMが孕んでいる問題点としてもっとも注意しなければならない点は、さまざまなレベルの臨床データの解析によって得られた結果が独り歩きして、clinical pathやガイドラインとして診療に必要以上の枷をはめてしまうことである。欧米に比べて個々の医師の診断・治療における裁量権が大きく、診療にばらつきの大きかったこれまでの日本の現状を擁護する必要はないが、エビデンスという新しい医学の方法論をもとに画一的な医療をすすめることの危険性についても本書ではきっちりと言及されている。現時点でもっとも推奨レベルの高いエビデンスといわれているのはサンプルサイズがしっかりと担保された大規模無作為化比較対照試験、およびそれらのメタアナリシスによって確認されたデータである。ただし最新の定義では、それに「互いに独立した二つの」という注釈をつけなければならないことも常識になってきていることを忘れてはならない。
 エビデンスを正しく評価し、臨床医が診療に応用するかを判断するにあたっては、それを検証するために企画される臨床試験に積極的に参加して、バイアスの実態や統計学における操作、後付け解析結果の意義などについての理解を深めることが、本書を活用するうえでもっとも重要な学びではないかと考えている。
評者● 坂本純一
臨床雑誌外科72巻10号(2010年10月号)より転載