書籍

TRIマニュアル

PCIの真髄は低侵襲にあり!

編集 : 伊苅裕二
ISBN : 978-4-524-26085-0
発行年月 : 2010年10月
判型 : B5
ページ数 : 230

在庫なし

定価6,480円(本体6,000円 + 税)

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

近年、デバイスの改良・進化、手技の工夫等により注目を高めるTRI(橈骨動脈アプローチ)について、本領域のエキスパートによりその基本から応用までを解説する。さらに、患者侵襲度の軽減を目的に浸透しつつあるSLENDER PCIについてもデバイスごとに解説。これからTRIを始める若手医師、SLENDER PCI導入を検討している医師にお勧めの必携書。

I章 TRIってどんなもの?
  1.そもそもなぜTRIで治療するのか─TRIの現状と治療成績を含めて─
  2.本邦におけるTRIの普及活動:批判といかに戦ってきたか─TRA-netにおける啓発活動を含めて─

II章 TRIのための準備
 II-a.TRIに必要なシステム
  1.手台と布掛け
  2.局所麻酔
  3.橈骨動脈用シース
  4.橈骨動脈用止血器具
 II-b.TRIに必要な知識
  1.橈骨動脈のサイズ
  2.橈骨動脈の解剖と奇形

III章 TRIの実践―さあ、はじめよう!
 III-a.TRIによるPCIの基本事項
  1.症例の選択:緊急症例に対するTRIの位置付け
  2.穿刺のコツと穿刺ができないときの対処
  3.ガイディングカテーテル挿入に伴う合併症と安全なデバイスの選択
  4.バックアップ力の基本的な考え方
  5.ガイディングカテーテルの種類とTRIでの能力
  6.ガイディングカテーテルの安定性を向上させるテクニック
  7.Ina Bauerへの対処
  8.ガイドワイヤーの使い方
  9.バルーンカテーテルの使い方
  10.ステントの使い方
  11.TRIで分岐部を治す
  12.イメージングカテーテルの使い方
  13.ロータブレーターの使い方
  14.血栓吸引法、末梢保護法
 III-b.合併症とその対策
  1.橈骨動脈のスパスムとその対処
  2.カテーテルが折れてしまった場合の対処
  3.冠動脈穿孔の止血法
  4.心タンポナーデの穿刺:そのタイミングを含めて
  5.異常な血栓性の亢進のときの対処

IV章 Slender PCI
 IV-a.Slenderってなに? なぜそんなことするの?
 IV-b.Slenderデバイス
  1.3Fr診断造影カテーテル
  2.4Frガイディングカテーテル
  3.5Frガイディングカテーテル
  4.0.010ガイドワイヤー
  5.0.010バルーンカテーテル
  6.3Frウルトラロングシース
  7.5Frシースレスガイディングカテーテル
  8.6Fr IABP
  9.Device Delivery Device
 IV-c.Slenderだからできること
  1.5Fr de Percu
  2.5Fr de Filtrap
  3.5Fr de KBT
  4.6Fr de KGT
  5.Emperor's New Clothe Technique
  6.5 in 6 Technique
  7.Minimum Contrast PCI
 IV-d.Slender PCIの複雑病変への応用
  1.Slenderを用いたCTO-PCIの臨床成績
  2.右冠動脈CTOにSlenderシステムが有用だった1例
  3.分岐部病変へのSlenderの可能性
  4.複雑病変に対するSlender戦略

付章 2010:A TRI odyssey
  1.ライブから垣間見るTRIと低侵襲PCI
  2.私が期待するTRIと低侵襲PCI
  3.TRIの歴史と発展:これからのTRI、低侵襲冠動脈治療に求められるもの

索引

「PCIの真髄は低侵襲にあり」というと、多くの先生は反対されるかもしれません。たぶん、「PCIの真髄は治療成績にあり」のほうが正しいと主張されるかもしれません。もちろん、冠動脈疾患の治療である以上、その短期成績、長期成績が最も重要です。一方でPCIにおける出血性合併症は決して無視できませんし、塞栓性の合併症も確かに存在します。合併症を減らす努力というのは、安全なPCI治療においてひとつの重要な要素です。
 PCIは1978年Gruntzig先生により初めて報告されました。彼は、1枝病変に対し、全身麻酔し、胸骨正中切開のうえ開胸、心停止によるバイパス手術はあまりに侵襲が大きいと考えPCIを開発したと私は聞いています。つまりGruntzig先生がPCIを開発した際の彼の頭脳の中では、長期成績よりも低侵襲がより重要な要素であったと考えます。実際、初期のバルーンによる血管拡張術では明らかにバイパス手術に対し長期成績は劣っていました。ところが、その間に冠動脈形成術は瞬く間に世界中に広がっていきました。その低侵襲さが受け入れられたためと思われます。
 われわれは、その歴史の上にPCIを行っています。現在、薬剤溶出性ステントが登場しても未だに冠動脈バイパス術にPCIの治療成績が上回ったエビデンスは残念ながらひとつもありません。もし治療成績が最も重視されるのであれば、PCI症例はすべてバイパスを行うべきです。しかしPCIの良さである低侵襲を考慮すればPCIはとても良い治療であり、患者さんの利益も十分にあります。とすれば、PCIをより低侵襲に行うことは、バイパス手術に対しPCIが生き残るための最良の対抗策ではないでしょうか。
 心臓カテーテルは、1929年ドイツの泌尿器科医であるDr.Frossmannが自分の左上腕静脈から尿道カテーテルを挿入したことが世界最初です。彼は泌尿器科医としては不遇でしたが、心臓カテーテルの道を開拓した業績でノーベル賞を受賞しました。Dr.Sonesは1958年上腕動脈から冠動脈造影を始めました。心臓カテーテルは元々上肢アプローチであったのです。ところが、1960年代にDr.Judkinsが大腿動脈アプローチを開始し、これが一般的な時代にPCIが開始されたため、大腿動脈アプローチがPCIの標準手技となりました。その後、デバイスの縮小に伴い8Frから6Frでほとんどの手技が可能となり、経橈骨動脈アプローチによる冠動脈インターベンション(TransRadial coronary Intervention:TRI)へと移行し始めました。これも低侵襲の流れだと思われます。
 さて、現在DESにて再狭窄に一定の解決策が示されました。慢性期のステント血栓症も重大な問題であるものの、急性期の出血および塞栓合併症も重大な問題です。この点はあまり焦点が当てられてきませんでしたが、病棟で患者さんをお世話する若い医師には、この問題点は明確にわかっていました。
 これを解決するのは、TRIであり、Slender PCIであると考えられます。本書では、初学者でもTRIやSlender PCIが始められるようなマニュアルを目指しました。
2010年9月
東海大学 伊苅裕二

医学書にはいろいろなマニュアルやハンドブックがあるが、本書は普通のものとはひと味もふた味も違う。筆者には楽しい物語であった。もちろん、マニュアルであるからTRI(経橈骨動脈的冠動脈インターベンション)の手技やいろいろな場面での対応、tips & tricksが書かれているが、それだけではない。このマニュアルは、Slender Clubの面々が「TRI」への熱き思いを吐露し、まとめられたものでもある。このマニュアルを手にする人は、誰かからその熱気を移された人かもしれないが、TRI、TRA(経橈骨動脈冠動脈造影)、radialist、Slender PCIなる言葉が氾濫していて、これらに関心のない人はお呼びでない雰囲気すらある。しかし一方で、TRIがもはや特別視される手技ではなく、ごく標準的な手技となっていることをこのマニュアルは示している。TRIに命を賭けてきた人々の思いも、少しずつ過去の物語になりつつあるのかもしれない。
 筆者は残念ながらTRIに手を染めたことはない。このマニュアルを編集した伊苅裕二先生に冠動脈インターベンション(PCI)への熱気を移した縁で、書評を書くこととなったのである。TRIとは経橈骨動脈アプローチによるPCIで、大腿動脈からのPCI(TFI)と対比される。TRIは、細い橈骨動脈からのアプローチであるため、長年選択できるカテーテルや器具には制約があったが、小径デバイスを用いたPCI、Slender PCIを目指した面々の努力と、製造技術や素材の進歩によりデバイス小径化が実現し、TRIがルーチンの手法となったわけである。TRIの本邦への導入者であり、その伝道者である齋藤滋先生と2000年に行ったディベートを思い出す。TFIを擁護する立場の私は、長い行列のできたラーメン屋のスライドを示し、安静時間(待ち時間)が長いかどうかが問題ではない、行われた治療内容(ラーメン)がよいかどうかが問題だ、と主張したことを覚えている。当時はTFIのほうがoperator friendlyで、DCAやロータブレータなどのnew deviceと呼ばれた治療器具を駆使することができたのに対して、TRIはpatient friendlyではあったが手技上の制約は多かったのである。種々のPCIの技法がステントに集約された今日では、PCIの本来の目的であった低侵襲性を追求する環境が整い、橈骨動脈からのアプローチを行う術者、radialistがPCIの本流となったのである。本邦でのPCI件数が早い時期から冠動脈バイパス術件数を大きく上回っていた理由は、PCIの低侵襲性が日本人の好みに合い、patient friendlyであったためである。患者満足度が重視される今日の流れに沿ったものであったといえよう。
 このマニュアルでは、TRIを実際にどう行うかということと、TRIによくマッチした3F〜6Fのガイディングカテーテル、0.010インチガイドワイヤー、0.010インチバルーンカテーテルなどの小径デバイスを駆使したSlender PCIをどう行うかということに分かれているが、一連の流れを一気に読み通すことができる。TRIを知りたい人、TRIを知らなければならない人には格好のマニュアルである。諸外国でもTRIが増えつつあるという。radialistの皆さんには、日本製Slender PCIデバイスとともに世界のTRIを席巻してもらいたいものである。
評者● 山口徹
臨床雑誌内科107巻5号(2011年5月号)より転載