書籍

EPS概論

編集 : 村川裕二/山下武志
ISBN : 978-4-524-26052-2
発行年月 : 2010年12月
判型 : B5
ページ数 : 404

在庫僅少

定価12,960円(本体12,000円 + 税)

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

カテーテル・アブレーションの技術は飛躍的に進歩したものの、医師自身が生理現象に関する知識をしっかりと身につけていなければならないことに変わりはない。本書は、これまでの成書とは一線を画し、臨床現場で即座に役立つ実践書として読める“現場感覚のテキスト”である。心臓電気生理検査(EPS)を実際に行う全ての循環器科医、不整脈専門医に自信を持ってお勧めする。

I EPSはこう始まった
 A.ジョセフソンのテキスト
 B.His束電位から
 C.カテーテルアブレーションの黎明
 D.臨床心臓電気生理研究会

II 検査に備えて
 A.心電図検査:何が出るか予測する
 B.画像診断:胸部X線、心エコー、CT

III EPS/アブレーションを行う前に:ハード
 A.検査室のかたち(機器の配置)
 B.マンパワー
 C.目的に応じた電極カテーテル
 D.記録装置
 E.プログラム刺激装置
 F.カテ室を使いやすくする工夫

IV EPS/アブレーションを行う前に:ソフト
 A.鎮静のテクニックと全身管理
 B.カテーテル操作と穿刺法
 C.カテーテルの動かし方、電極カテーテルのポジショニング
 D.合併症とその回避
 E.検査室に入ってから出るまで

V プログラム刺激とは何か
 A.EPSに必要な電気生理
 B.洞結節と房室結節の生理
 C.プログラム刺激:期外刺激法
 D.プログラム刺激:頻回刺激法
 E.EPSで用いられる用語
 F.洞結節機能の評価

VI 検査と治療の実際
 A.洞不全症候群
  A.病態
  B.EPSで知りたいこと
  C.EPSの実際
  D.症例
  E.治療選択の考え方
 B.房室ブロック
  A.病態
  B.EPSで知りたいこと
  C.カテーテルの配置
  D.症例
  E.治療選択の考え方
 C.副伝導路の関与する発作性上室頻拍および特殊な副伝導路
  A.病態
  B.EPSで知りたいこと
  C.カテーテルの配置、およびカテーテルアブレーションの方法
  D.症例
  E.症例としては取り上げにくいが大事な所見
  F.治療選択の考え方
  G.特殊な副伝導路
 D.房室結節リエントリー性頻拍をめぐる新しい展開
  A.病態
  B.AVNRTの典型例
  C.まれなタイプのAVNRT
  D.未解明の問題点
 E.房室結節リエントリー性頻拍
  A.病態
  B.EPSで知りたいこと
  C.カテーテルの配置
  D.症例
  E.治療選択の考え方
  F.カテーテルアブレーションの方法
  G.不適切洞頻脈に対するアブレーション
 F.解剖学的峡部に依存する心房粗動および特殊な心房粗動
  A.定義と病態
  B.EPSの方法とそこから知りたいこと
  C.治療選択の考え方:解剖学的峡部に依存する心房粗動
 G.心房頻拍
  A.病態
  B.EPSで知りたいこと
  C.EPS中のカテーテルの配置
  D.症例
  E.特殊な心房頻拍
  F.治療選択の考え方
 H.心房細動
  A.病態
  B.EPSで知りたいこと
  C.カテーテルの配置
  D.症例
  E.大切な所見
  F.治療選択の考え方
  G.カテーテルアブレーションの方法
 I.陳旧性心筋梗塞の心室不整脈
  A.陳旧性心筋梗塞症例に発症する心室不整脈
  B.リエントリー回路の成り立ち
  C.どのような症例にEPSを行うか
  D.治療選択の考え方
  E.抗不整脈薬療法
  F.カテーテルアブレーション
  G.ICD治療
 J.非虚血性心疾患に合併する心室頻拍
  A.電気生理学的メカニズム
  B.抗不整脈薬の効果判定
 K.特発性心室頻拍:流出路起源
  A.病態
  B.EPSで知りたいこと
  C.カテーテルの配置
  D.症例
  E.その他の流出路起源頻拍
  F.治療選択の考え方
  G.カテーテルアブレーションの方法
 L.特発性心室頻拍:verapamil感受性
  A.病態と分類
  B.EPSで知りたいこと
  C.カテーテルの配置
  D.症例
  E.治療選択の考え方
  F.その他のアブレーションの方法
 M.心室細動とBrugada症候群
  A.病態
  B.EPSで知りたいこと
  C.カテーテルの配置と刺激法
  D.症例
  E.EPSを行ううえで知っておくべきこと
  F.治療選択の考え方
  G.カテーテルアブレーションの適応
 N.QT延長症候群
  A.病態と診断
  B.EPSの適応
  C.電気生理学的特徴
  D.単相性活動電位を用いたEPS所見
  E.治療
 O.QT短縮症候群
  A.病態と診断
  B.EPSの適応と電気生理学的特徴
  C.治療

VII 三次元マッピング法
 A.CARTO
  A.システムについて
  B.具体的な使い方
  C.マッピングのテクニック
  D.マッピング中の電位評価
  E.トラブルシューティング
  F.新たなマッピングテクノロジー
  G.CARTOを使いこなすには
 B.EnSite
  A.EnSite Array(EA)とEnSite NavX(NavX)のシステムとその利点
  B.EAの具体的な使い方

VIII EPSで用いる薬剤:いつ、なぜ使う
 A.isoproterenol、atropine、β遮断薬
  A.isoproterenol、atropine、β遮断薬の作用機序
  B.isoproterenolとEPS
  C.atropineとEPS
  D.β遮断薬とEPS
 B.ATP(アデノシン三リン酸)
  A.薬理作用
  B.臨床における使用方法
  C.上室頻拍(SVT)に対する作用
  D.心室頻拍(VT)に対する作用
  E.EPSにおける有用性
 C.抗不整脈薬
  A.カテーテルアブレーション全盛期における抗不整脈薬の位置づけ
  B.抗不整脈薬の基本を知る
  C.EPSで抗不整脈薬をいつ使うか

索引

どの分野であれスペシャリストというのは、門外漢からは「風変わりな人種」に見える。
 そのなかでも臨床の心臓電気生理学にたずさわる者たちは、「違う言葉を話す循環器科医」という定評があり、長い間「なにが面白いのか」といぶかしげな視線にさらされてきた。
 それに比べて、「冠動脈造影」で左前下行枝近位部に90%狭窄があれば、誰が見たって危なそうに見えるし、その狭窄がステントによってすっきり広がれば、もう大丈夫だと理解できる。「PCI」をやっている医師も、ガイドワイヤーの曲がり具合とかデバイスの好き嫌いなど、十分に「こだわりのかたまり」だが、どちらかというと電気生理よりも共感を得やすい。
 ところが、カテーテルアブレーションという技術が現れ、心臓電気生理学は「診断の手段」から瞬く間に「治療の手段」に変貌した。海に出て魚の生態調査をしているだけだったのが、調査のついでに魚を釣り上げることもできるようになり、いっそうやりがいのある仕事になった。
 心臓電気生理学が進歩する過程でいろいろなブレークスルーをみた。その一つひとつを目のあたりにした先駆者は成長するフィールドに居合わせたのだから、かなり楽しめたことだろう。電気生理学の黎明期には、房室結節の性質についてあれこれ議論があった。面白いことに未だに房室結節と心房との連絡や、房室結節の近傍にある組織が頻拍にどう関わっているか、あるいはupper common pathwayやlower common pathwayはどうなっているかなどという話題は尽きることがない。しかし、カテーテルアブレーションのおかげで電気生理学にも新たな視点と知見が加えられ、昔日とは比べようもなく、深く広く俯瞰できるようになってきた。
 本書は心臓電気生理学検査に関わる事柄を基礎からカテーテルアブレーションに至るまで網羅した。執筆の先生方には、あたりさわりのない一般論でなく、自分自身の「思い込み」も書き込んでもらった。カテ室で自らの経験や洞察を語る先輩の気分になって筆を進めていただいた。
 本書により、読者諸兄の不整脈診療がいっそう洗練したものになることを願うものである。
2010年11月
編者

編者の二人は評者にとって、東京大学第二内科時代の仲間である。村川裕二兄は現富山大学の井上博教授に師事して、心室細動の発生と停止の機転を研究テーマとした。山下武志兄は現大阪大学の倉智嘉久教授に指導を受けて、膜電流系の仕事に従事した。ともに今日、不整脈診療の第一線で高い評価を受けているが、両人とも、早い時期に不整脈の基礎的研究に従事してきたことがその基盤になっていると思っている。
 本書の題名は「EPS概論」である。EPSはElectrophysiological Studyの頭文字であり、類書では日本語で電気生理学検査という。専門家の間で取り交わされていたEPSがそのまま、本の題名になっている。それだけに、本書は現場で検査を担当する方々にとっての実践的な参考書を志向しているようである。
 冒頭に「EPSはこう始まった」という章があり、第1回臨床心臓電気生理研究会(1977年)の演題が表になっていた。症例報告の一つに私が出した演題があった。懐かしかった。EPSが導入された40年前、それが普及、発展して、あらかたの不整脈の機序がわかり、治療までが可能となった今日を想像することはできなかったのである。
 まず、執筆者26氏の顔ぶれを一人一人みる。私が信頼する二人が選んだ人たちである。EPSのハード、ソフト、手技の解説で始まって、検査・治療の実際が不整脈種類別に、ついで、疾患別に、特発性、Brugada症候群、QT延長とQT短縮症候群などについて述べられている。三次元マッピング法をCARTOとEnSiteについて紹介し、終わりには使用される薬剤の使い方まで、すべてが網羅されている。
 生命となる記録ないしは図が実に鮮明で、添えられた画像とともに、興奮伝導の実態がわかりやすい。特色は諸処に挿入されている「キーメッセージ」であろう。各位の「思いこみ」を書いたものらしい。これを拾いながら、読んでいく。「心電図解析が半ばの勝負になる」とあって、P波への注意が喚起されている。P波は昔も今も、事件の陰に隠れる女性なのである。「経食道ペーシングが有用なことがある」。カテーテルの挿入、操作には詳しい。「挿入本数、手技時間は短縮を工夫する」。鎮静には、「麻酔用脳波モニタリング(bispectral index:BIS)がすすめられる」。操作時の合併症は重要である。「測定される数値の正常範囲、基本的な用語の理解が大事である」とあって異所性自動能、異常自動能、撃発活動、エントレインメント、gap現象、peeling back現象、過常伝導、fatigue現象などが解説される。「経時的な診察や検査が重要である」のは昔と変わりはない。「カテーテル位置の解剖学的把握が大事であり、穿孔を防ぐためには、再留置には一度、引く」という実践的な注意がある。「AVNRT回路は周辺心房組織を含む」。「ときとして、まれなタイプのAVVRTがあり、未解明な問題点がある」というあたりは、これから明らかになっていくのであろう。「focal型心房頻拍には非エントリー型とマイクロリエントリー型とがある」。「機序解明には三次元マッピング、CARTOシステム、EnSiteシステムが必要である」。「不適切洞頻脈もアブレーション治療が可能である」、「肺静脈隔離後の心房細動誘発は心房に基質があることを示唆する」、「CFAEアブレーションでは心房全体をくまなくマッピングする」、「心室頻拍には瘢痕部関連リエントリーの他にHis−Purkinje関連頻拍があり、これには脚間、脚枝間、束枝リエントリーがある」、「ベラパミル感受性心室頻拍のリエントリー回路は数センチ以上の大きな回路を有する」、「心室細動のリスク評価のために、EPSはファーストラインではない」。「CARTOシステムにはCTやMRIとのインテグレーションを備えたものも使用可能となっている。ここではリファレンス電位の選択が重要である」。
 読み終えて、EPSには大きな進歩があったこと、そして、その進歩にはお二人の編集者が馴染んできたような基礎研究の考え方がバックグラウンドとして生きてきていること、を思った。
 本書は現在、EPSを日常の仕事として取り組んでいる人たち、取り組もうとしている人たちを対象としている。それだけに臨場感に富み、日常もたれる疑問によく答える内容になっている。患者から相談を受ける立場にある医師たちにとっても、大変に重宝されるであろう。進歩を続ける医学の各領域の中でも、EPSの進歩、技術革新はまことに目覚ましい。多くの人たちに是非一読していただき、そして活用していただきたい、と思った。
評者● 杉本恒明
臨床雑誌内科108巻1号(2011年7月号)より転載