書籍

不整脈プロフェッショナル

イオンチャネルからアブレーション治療まで

: 土谷健/高橋尚彦
ISBN : 978-4-524-26019-5
発行年月 : 2010年3月
判型 : B5
ページ数 : 300

在庫あり

定価8,424円(本体7,800円 + 税)

正誤表

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

日々進歩する不整脈診療について、基礎から臨床の実際までを幅広くまとめた。I章の基礎編では不整脈診療に欠かせない心臓電気生理の基本を豊富な解剖像やイラストを示しながら丁寧に解説、II章の臨床編では実際の治療を非薬物療法を主体として疾患ごとにわかりやすく解説した。心臓電気生理検査(EPS)やカテーテルアブレーションに携わる医師、研修医に向けた著者渾身の一冊。

I章 基礎編
 1.EPSの理解のために必要な解剖の基礎知識
  A.心臓とは
   1.心臓の範囲
   2.心膜斜洞と心膜横洞
  B.左房、右房
   1.発生学的見地より見た右房の解剖
   2.右房の各部位の解剖と電気生理学的性質
   3.左房の解剖
   4.両心房間の交通
  C.洞結節、房室結節
   1.洞結節
   2.結節間伝導路
   3.房室結節
  D.His-Purkinje系
   1.His束
   2.右脚
   3.左脚
   4.Purkinje線維
  E.左室、右室
   1.右室
   2.左室
 2.EPSに必要な基礎電気生理
  A.イオンチャネルの基礎知識
   1.イオンチャネル研究の歴史
   2.心筋細胞の主要なイオンチャネル
   3.心筋細胞のイオントランスポータ
  B.活動電位とfast-、slow-response
   1.静止膜電位の形成
   2.活動電位の形成
   3.心臓各部位の活動電位と体表面心電図
  C.頻拍の機序
   1.異常自動能
   2.トリガードアクティビティ
   3.リエントリー
  D.ギャップジャンクション
   1.ギャップジャンクションとは
   2.コネキシン
   3.キャンプジャンクションの機能
  E.抗不整脈薬の作用機序
   1.Vaughan Williams分類とSicilian Gambit分類
   2.Na+チャネル遮断薬の作用機序
   3.K+チャネル遮断薬の作用機序
 3.EPSの基礎
  A.電位とは何か
   1.心臓の興奮とは
   2.電位とは
   3.双極電位記録法の原理
   4.双極電位記録法の特徴と注意点
   5.遠隔電位とband pass filter
   6.局所興奮のタイミングの測定
  B.単極電位の解釈法
   1.単極電位の波形の成り立ち
   2.単極電位の時相の解釈
   3.単極電位の波高の解釈
  C.双極電位の解釈法
   1.双極電位の解釈の基本的方法
   2.双極電位の時相、波高、電位幅の意義
   3.双極電位の名称
  D.EPSを理解するために必要なその他の事項
   1.不応期
   2.ペーシング閾値
   3.興奮マッピング
   4.ペースマッピング
 4.三次元マッピング法
   1.三次元マッピング法の位置づけ
   2.Electroanatomical mapping
   3.Non-contact mapping
   4.EnSite NavX
   5.三次元マッピングの問題点とその対策
 5.高周波カテーテルアブレーションの原理、基礎
   1.高周波通電による熱発生の原理
   2.カテーテル先端温度と組織温度
   3.先端電極長4mmと8mmの差異
   4.高周波通電に影響を与える他の因子
   5.Irrigation catheter

II章 臨床編
 1.上室頻拍
  A.総論
   1.頻拍性不整脈とQRS幅
   2.QRS幅の狭い頻拍の大まかな考え方
   3.QRS幅の広い頻拍の大まかな考え方
  B.房室結節リエントリー性頻拍
   1.房室結節とその進入路の解剖とAVNRTの回路
    高橋先生のcolumn(房室結節の“領域”)
   2.AVNRTの分類と機序
   3.遅伝導路の同定法
   4.AVNRTの高周波カテーテルアブレーション法
  C.WPW症候群と房室回帰性頻拍
   1.WPW症候群と副伝導路
   2.副伝導路の位置と心電図診断
   3.WPW症候群に関連して発生する頻拍性不整脈
   4.AVRT時の心内電位の解釈
   5.中隔部副伝導路を介するAVRTとAVNRTとの鑑別法
   6.副伝導路の同定法
   7.副伝導路の高周波カテーテルアブレーション法
    高橋先生の基礎講座(1)上室頻拍の診断と治療におけるATPの有用性
  D.通常型心房粗動
   1.通常型AFLとは
   2.通常型AFLの高周波カテーテルアブレーション法
  E.特発性心房頻拍
   1.ATの鑑別診断
   2.ATの分類
   3.ATの治療法
  F.続発性心房頻拍
   1.続発性ATの機序
   2.器質的心疾患に伴うAT
  G.心房細動
   1.肺静脈起源AF
   2.肺静脈起源以外のAF
   3.AFのアブレーションにおける合併症と対策、予防
    高橋先生のcolumn(心臓大血管興奮伝導の発見)
 2.心室不整脈
  A.総論
   1.心電図によるVTの診断と治療
   2.EPSによるVTの誘発と診断
  B.特発性心室頻拍
   1.流出路起源VT
   2.ベラパミル感受性VT
   3.その他の特発性VT
  C.続発性心室頻拍
   1.続発性VTの発生基盤
   2.従来の透視下でのVTアブレーション法
   3.三次元マッピング法に基づくアブレーション
   4.心外膜アプローチ
  D.特殊な心室頻拍
   1.不整脈源性右室心筋症
   2.脚枝間リエントリー性VT
  E.Brugada症候群
   1.Brugada症候群の臨床的特徴
   2.Brugada症候群での検査所見
   3.Brugada症候群の機序と治療
    高橋先生の基礎講座(2)1.Brugada症候群の遺伝子異常/2.Brugada症候群のST上昇、VF発症のメカニズム
  F.多形性心室頻拍と心室細動
   1.QT延長症候群
   2.QT短縮症候群
   3.心室細動
    高橋先生の基礎講座(3)1.遺伝性QT延長症候群の遺伝子異常/2.後天性QT延長症候群の遺伝子異常
 3.徐脈のEPS
  A.洞不全症候群
   1.洞不全症候群の分類
   2.EPSの適応
   3.EPSの方法
   4.EPSの結果をどのように治療方針に反映させるか
  B.房室ブロック
   1.房室ブロックの分類
   2.EPSの適応
   3.EPSの方法

索引

不整脈学は、遺伝子解析、イオンチャネル、活動電位、局所電位、興奮伝播、頻拍機序の解析、それに基づいたカテーテルアブレーションをはじめとした治療学などの各レベルでの学問が有機的につながった荘厳な美しい宇宙であり、格調高い学問体系である。そして、その理論的整合性のため、専門医からすると、これほど理路整然としてわかりやすい学問はない。一方で、専門以外の医師からは、不整脈は難しく取っつきにくいと言われる。オタクの学問やマニアの学問とまで言われ、我われ専門医は長年肩身の狭い思いをしてきた。私は長年にわたって、両者の間に横たわる深く広い溝を埋めたいと思い悩んできた。
 実際、どんな病院にも心電図があり、非常に多くの患者が不整脈で苫しんでいる現状があるが、なかなか専門医以外で不整脈の診断や治療に親近感を持った医師には出くわさない。どうしてこうなるのか? 不整脈の専門医にオタクや気難しい人が多いわけではなく、むしろ人柄の良い紳士と淑女がそろっていると私は思う。不整脈学を忌避する医師の多くは、きっと学生時代に難しい理論ばかり聞かされ、面白さに目覚める前に嫌になってしまったに違いない、私はこれをどうにかしなければと思った。
 しかし、私は単なる現場の臨床医であり、教科書を書くような柄ではない。正直、この本の執筆話を持ち掛けられたときには、執筆に必要と推定されるエネルギー量と時間にひるみ、一旦はお断りした。しかし、親友である高橋尚彦先生が基礎部分を執筆され、さらに私の浅い知識を基礎分野からしっかりと補強いただけると説得され、浅学非才を省みず、厚かましくも執筆させてもらうことにした。しかし、一旦引き受けたからには専門以外の医師、医学生、技師、看護師にも不整脈になじみを持ってもらい、心電図を見てもアレルギーを起こさず、できれば不整脈の最先端では何か行われているのかを理解できるように、わかりやすい不整脈の教科書を書こうという気になった。我われをオタクと呼ばせないようにしたいという下心もある。
2010年2月
執筆者を代表して
土谷健

月並みでない、毛色の変わったテキストが上梓された。このようなテキストを手にとると知的な興奮を覚えずにはいられない。土谷、高橋両氏の手になる『不整脈プロフェッショナルイオンチャネルからアブレーション治療まで』である。土谷先生は、不整脈のアブレーションを行っている方にはつとに知られたEP Expert Doctors−Team Tsuchiyaの主宰者で、出張アブレーションを実施しており、わが国のアブレーション領域の第一人者である。高橋先生はオーソドックスな心臓電気生理の専門家である。基礎的な部分と徐脈は高橋先生が、アブレーションの基礎と臨床(頻脈)は土谷先生が分担している。
 基礎からアブレーションまでがカバーされてはいるが、主眼はアブレーションにある。基礎編と臨床編の2部構成で、基礎編はEPS(電気生理検査)のための解剖、基礎電気生理、EPSの基礎、三次元マッピング法、高周波カテーテル・アブレーションの原理・基礎の5項から成っている。臨床編は上室頻拍、心室不整脈、徐脈の3項から成る。心臓の解剖に20ページ余りが割かれているが、アブレーションを念頭に置いた局所解剖学である。基礎電気生理の部分もアブレーションに特化した記載になっていて、興奮伝播過程を単極誘導あるいは双極誘導でいかに判読するかなどが詳細に論じられている。イオン・チャネルの項は高橋先生の平明な記載により、知識の整理が容易になる。たとえば、カリウム電流の一つであるIKurのチャネルがなぜKv1.5であり、内向き整流K電流IK1のチャネルがKir 2.1と呼ばれるのか、理解できた。
 当然、個々の頻脈性不整脈についての記載はアブレーションに特化しており、薬物治療の記載は限られている。所々に「memo」として用語の解説、臨床場面での注意事項などが配置されている。とくに「アブレーションのコツ」は、土谷先生の面目躍如たるものがある。臨床編には、「高橋先生のcolumn」として、トピックスの解説が挿入されており、読者の参考になる。図も多数掲載されており、心臓の肉眼解剖や三次元マッピングはカラーであり、容易に理解できる工夫がされている。
 先に述べたようにアブレーションに特化した内容であるため、個々の不整脈について治療方針の一般的な解説、薬物療法に関する記載、あるいは期外収縮の対応などは省かれている。したがって、これから不整脈を勉強しようとする若い人がまず読むものとして本書を推薦することは、少々憚られる。不整脈一般(薬物治療も含む)に関して一通りの知識を身につけアブレーションを志そうとする方々、すでにアブレーションを行っている中堅の方々、エキスパートを目指し土谷先生のワザを盗みたいと願っている方々に、本書をお勧めしたい。安直な入門書がはびこっている(かのような)現代にあって、本書のような良質の、しかもレベルの高いテキストを上梓された著者と出版社に応援を送りたいと思う。
評者● 井上博
臨床雑誌内科106巻2号(2010年8月号)より転載

不整脈学は電気生理学だけでなく、解剖学と分子生物学にも立脚したきわめて理路整然とした学問体系であるということを、つくづくと実感させられる成書である。不整脈に関する成書は数多く出版されているが、それらの多くは基礎電気生理か電気生理検査の基礎から書き始められているものが多い。本書では、まず不整脈の理解に必要な解剖の基礎知識を解説するところから始まり、さらにイオンチャネルやギャップジャンクションの説明へと連なる。カテーテルアブレーションを中心に、臨床不整脈治療の経験豊富な土谷先生と、基礎電気生理学から臨床電気生理学まで、幅広い知識を備えている高橋先生の共著ならではの構成と内容である。田原淳を輩出した九州の不整脈研究の伝統と底力を感じる。
 循環器疾患の中で、不整脈ほど理論体系化された分野はない。ほかの疾患と同様、不整脈の治療にも必ず根拠があり、その根拠に基づいた治療法であれば必ず成功するはずである。うまくいかない場合には必ずなんらかの理由がある。その理由をひたすら探求し、可能な限り解消してきたことが、学問体系の成熟と今日の治療成績の向上に結びついている。不整脈は心調律の異常であり、不整脈学は「時間」の学問である。すなわち、心筋の興奮は伝導速度と不応期で規定され、その興奮伝播は種々の解剖学的不均一性によって修飾される。疾患に伴う形態的変化やイオンチャネルの異常は、伝導速度と不応期に変化と空間的・時間的ばらつきを生じ、この「時間」をゆがめて不整脈を生じる。
 この成書を単なるアブレーションの本ととらえたら大きな間違いである。本書はむしろ、アブレーションをはじめとする不整脈非薬物治療の基礎となる解剖学的、電気生理学的事項の記述に大きな特色がある。圧巻はやはり基礎編である。筆者は不整脈外科を専門とする心臓外科医であるが、不整脈の外科手術を行ううえで、ぜひとも知っておかなければいけない解剖学的および電気生理学的事項が、詳細かつたいへんわかりやすく記述されている。したがって、カテーテルアブレーションに必要なこれらの知識は、不整脈手術に必要な解剖の基礎知識と読みかえることもできる。
 個人的には双極電位と単極電位の解釈がたいへん勉強になった。特に立体での解釈は、術中マッピングにおける局所興奮時間の決定など、日ごろから悩んでいた問題点のいくつかに解決の糸口を与えてくれた。欲をいうと心房細動の機序についてもう少し踏み込んだ解説がほしかったが、いまだ定説がない部分も多い分野であり、この部分はさらに知見が積み重ねられた後に出版されるであろう第2版に期待したいところである。
評者● 新田隆
胸部外科63巻9号(2010年8月号)より転載