書籍

指導医が教える循環器診療の基本

問診・身体所見から考える

編集 : 吉田清/山科章/近森大志郎/渡邉望
ISBN : 978-4-524-23871-2
発行年月 : 2011年3月
判型 : B5
ページ数 : 274

在庫あり

定価7,344円(本体6,800円 + 税)

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

動悸を訴える患者さんの問診から、不整脈“らしい”か“らしくない”か、胸痛の患者さんから狭心症“らしい”か“らしくない”かの見分け方、その後チェックすべき検査、診断後の治療までの循環器診療の考え方・進め方がわかる。「教科書に書いていないアドバイス」や「知っておきたい事前確率」満載で、頼れる指導医をそばに感じられる一冊。

I 初診シーン ここをチェック!
 1.胸痛
 2.呼吸困難・息切れ
 3.動悸
 4.失神・めまい
 5.浮腫
 6.チアノーゼ
 7.高血圧
 8-1.ショック
 8-2.心肺停止

II 疾患を疑ったら ここをチェック!
救急循環器疾患
 1.急性心筋梗塞
 2.不安定狭心症
 3.急性心不全
 4.急性大動脈解離
 5-1.高血圧緊急症
 5-2.二次性高血圧
 6.肺血栓塞栓症
 7.急性動脈閉塞症
 8.心原性塞栓症
 9.不整脈発作
 10.急性心膜炎
 11.急性心筋炎
 12.心タンポナーデ
 13.感染性心内膜炎(IE)
非救急循環器疾患
 1.狭心症
 2.梗塞後狭心症
 3.慢性心不全
 4.弁膜症
 5.心筋症
 6.収縮性心膜炎
 7.先天性心疾患
 8.不整脈
 9.高血圧
 10.大動脈瘤
 11.閉塞性動脈硬化症(ASO)
 12.大動脈炎症候群
 13.脂質異常症
 14.睡眠時無呼吸症候群(SAS)
 15.コンサルテーション

III 知っておきたい 基本の検査・薬剤・治療手技
検査
 1.血液検査
 2.心電図
 3.心エコー図検査
 4.心血管造影
 5.CT・MRI
 6.心筋シンチグラフィ
 7.電気生理学的検査
 8.血液ガス分析
薬剤
 1.抗血栓薬
 2.降圧薬
 3.狭心症治療薬
 4.抗不整脈薬
 5.心不全治療薬
 6.脂質異常症治療薬
治療手技
 1.ペースメーカ
 2.植込み型除細動器(ICD)・心臓再同期療法(CRT)
 3.経皮的冠動脈インターベンション(PCI)
 4.カテーテルアブレーション法
 5.大動脈内バルーンパンピング(IABP)
 6.経皮的心肺補助(PCPS)

索引

本書は研修医を対象に、診断から治療までの循環器診療の考え方を解説したものである症状を訴える患者の問診や所見から、例えば肺塞栓症“らしい”か“らしくない”か、狭心症“らしい”か“らしくない”かの見分け方、その後の検査、治療の考え方、進め方を平易に解説している。以下に、医師の診断を進める際の考え方の基本となる科学的な検証の在り方(仮説演繹法)を記して序文に代える。
 診断を進めるときほとんどの医師は無意識に仮説演繹法を行っている。患者の訴えや所見から、鑑別診断をあげ、可能性の高い順、あるいは見落としてはならない疾患を思い浮かべる。それぞれの疾患について、どの程度の確率があるかによって次に何をするかを考える。確率が著しく低ければそれで終わるし、逆に著しく高ければ治療へと進む。その間にあって、診断がつかない場合は次の情報を得て、その結果で判断する。その情報は病歴、身体診察所見、検査結果のいずれでもよい。その過程を繰り返すことを仮説演鐸法という。
 もう少し説明しよう。例えばある検査をするとき、検査を行う前の疾患の確率(事前確率:事前オッズ)がわかり、検査の確からしさ(尤度比)がわかれば、検査後の確率(事後確率:事後オッズ)を導き出すことができる。オッズ(尤度比)は可能性のある確率を可能性のない確率で除したものであり、事前確率50%なら50÷50の1、75%の可能性なら75÷25の3となる。検査の尤度比とは検査の感度(疾患のある患者が陽性に出る確率)と特異度(疾患のない患者が陰性に出る確率)から求められ、陽性のときの尤度比(陽性尤度比)は感度÷(1-特異度)、陰性のときの尤度比(陰性尤度比)は(1-感度)÷特異度で表される。すなわち、感度が70%で特異度が80%なら結果が陽性のときの尤度比は3.5となる。
 事前オッズと尤度比がわかれば、事後オッズ=事前オッズ×尤度比であり、簡単に事後オッズを導くことができる。事前オッズが1の患者に尤度比3.5の検査を行って結果が陽性なら事後オッズは3.5となる。これを確率に直すと78%となる。
 例をあげてみよう。例えば胸痛を主訴とした来院して患者を診るときの第一歩はどれくらい急性冠症候群(ACS)らしいかを判断することである。2005年のJAMAの論文では、表1にあげるそれぞれの症状についてそれぞれ陽性尤度比をあげている。例えば、胸痛患者が受診したとき、右肩や両肩に放散する痛みを訴える場合にはACSの可能性はかなり高くなり、逆に体位で増悪するような胸痛だとその可能性はかなり低くなる。したがって、第一印象で60%の可能性(事前オッズ1.5)であると判断した人に右肩への放散痛があれば事後オッズは7.05(有病率0.87)となる。このように尤度比を知って病歴をとれば、より科学的に“らしい/らしくない”が判断できる。そういった意味でも、特に尤度比の高い症状と低い症状をおさえておくとよい。
 病歴と身体診察で検査前オッズ(確率)が定かになれば、適切な検査の選択が可能となる。病歴や身体診察の情報をおろそかにすれば、場当たり的かつショットガン的な検査を行うようになる。最近の検体検査や画像診断の進歩は、悲しいかな、仮説演繹法を無視したショットガン検査を普及させ、考えもせずCTやMRIなどを予定する“とりあえず検査”をすることが多くなっている印象を受ける。理詰めの診断を行って欲しいものである。
 本書のいくつかの項で、「知っておきたいエビデンス」の欄に尤度比を提示しているので応用して欲しいし、こういった考え方で診断を進めていただきたい。
2011年1月30日
編者を代表して
山科章

循環器の診療には、ある種の「コツ」がある。きちんとしたトレーニングを積んでいけば、そのコツも、つかめるようになってくるし、徐々に直感も冴えてくるものである。しかしながら、一人の医師として、研修医の先生方も、刻々と状況の変化する循環器の患者さんに対応していかなくてはならない。そんな場面では、あまり悠長なこともいっていられないのが現実だろう。本書は、医師としてのキャリアを開始して間もないドクターが、この「コツ」が飲み込めるように、臨床に役立つ考え方を、「手取り足取り」解説した実学の書である。
 本書は、症候別のパート、疾患別のパート、検査や薬剤、治療手技概説のパートからなっており、コンパクトながら贅沢なつくりとなっている。それでいて、系統立った習得が可能であるように配慮されているため、各項目を読み進めていくと、まるで、病棟や検査室で上級医から指導を受けているかのような気分にさせられる。循環器疾患の各論についても、できる限り平易に、また丁寧に解説がなされており、指導医陣の熱意と、後輩諸君への期待が感じ取れる構成となっている。
 本書は、実は自主学習というシーン以外でも、日常診療の場におけるレファレンスとして、あるいは、マニュアルに準じたものとして活用することができる。そのことは、各セクションが、「念頭におくこと」として、これ以上削れない数項目を提示することから始まっていることからも見て取れる。たとえば、動悸、浮腫、高血圧などの症候がある場合に、「緊急性はないか」、あるいは、「本当に○○なのか」などを念頭に置くように指示されている。実際の診療は、救急外来を含めて、ドラマのような修羅場ばかりではない。無駄にバタバタしていないか、あるいは、逆に鷹揚に構えすぎていないかどうかを、フィードバックをしながら診療を行うことは、研修医のみならず、すべての診療医に身に付けてほしいセンスだといえる。
 また、本書では随所に書かれている、「教科書に書いていないアドバイス」もユニークである。「ペースメーカーが設定と異なるモードにいつの間にか変わっているときに、電池消耗の可能性も考える」というのは、循環器専門医には常識的なことであるが、知らないと、電池切れに気付かなかったり、逆に不要な検査をしてしまう可能性もあるため、初学者にとっても大事な知識であるといえる。このようなポイントは、考えてみると確かに、教科書ではあまり見たことはない。このような、有益かつ実際的なアドバイスを数多く提示していることは、まさに即戦力養成講座たる本書を担当している執筆陣の面目躍如である。また、「アドバイス」の内容を通じて、執筆の先生方の本音や人間性まで滲み出ている、とするのは少々深読みしすぎであろうか。
 「知っておきたいエビデンス」のコラムにより、どの程度「特定の疾患」らしい、と考えていけばよいのかについて、その判断の根拠となるデータを、簡潔明瞭に、しかもさりげなく掲載している。本書にとって、「特定の疾患」の可能性をどう見積もっていくのか、を解説することは序文にもあるとおり、大きな目標の一つであると同時に、本書を「スタイリッシュ」にすることにも貢献している。本書は、初学者や研修医の先生にとっては、循環器指導医の息吹を感じながら、理論から実践に歩を進めていくための道標として、また、中級以上を自認する循環器診療スタッフにとっては、もれのない鑑別診断やアップデートな治療を行うための、心強い備忘録として愛用されるべき一冊であるといえる。
評者● 石坂信和
臨床雑誌内科107巻6号(2011年6月号)より転載