書籍

コンサルテーション・スキル Ver.2

「選択肢」から「必然」のチーム医療へ

: 岩田健太郎
ISBN : 978-4-524-22751-8
発行年月 : 2020年7月
判型 : 四六
ページ数 : 528

在庫あり

定価3,520円(本体3,200円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

臨床雑誌『内科』の連載を書籍化した好評書が約10年ぶりに改訂!初版で好評だった、著者ならではの絶妙な筆さばきと多面的な切り口によるレクチャーはそのままに、アップデートされた知見を随所に書き下ろし。さらにDr.ヤンデルこと市原真先生との対談、看護師イラストレーター・かげさんのイラストや漫画を加え、ビジュアルを大幅に刷新。さらに充実の内容となった。

対談 岩田健太郎×市原 真−チーム医療とコンサルテーション・スキル、そしてその未来
1 コンサルテーション・スキルとは何か?
2 コンサルタントに必要なプロフェッショナリズム
3 わかって欲しいくせにわかってたまるかという人々
4 呼ばれるタイミング
5 ニーズ、ワンツ、ホープスの把握
6 ペーシングは役に立つ
7 言いがかりをつける人々
8 コンサルタントの十戒 21世紀に生きる医師として
9 コンサルテーションの具体例 複合的に
10 「正しい」コメントとは何か
11 ときには攻めに出て
12 判断の根拠はどこにおくか
13 レアケースの扱い方 そして部下への態度
14 知らないことを知ること
15 縄張りとルサンチマンを越えて
16 オレオレ医療にさようなら
17 組織やシステムの改善を図る
18 お呼びがかかっていないときに
19 「お役所」タイプとのネゴシエーション
20 サボタージュを許容しないために
21 勇気、そしてリーダーシップについて
22 リーダーシップをもうすこし考える
23 教育は不平等である、という話
24 研修医の採用はいかにあるべきか
25 知識がないのが、問題なんじゃない
26 ことば、時間、そして空気
27 休養のすすめ
28 評価のコストを考える
29 わかっていないことを(1)
30 わかっていないことを(2)
31 プレゼンテーションの準備の仕方
32 プレゼンテーションの実践
33 ピットフォール集 失敗から学ぶ実践編
34 コンサルトノートの書き方
35 空気が読めないふり
36 雄弁ではなく、対話を
初版のおわりに
新版のおわりに
参考文献

はじめに

 コンサルテーション・スキル。それは、古くて新しいコンセプト。従来から、「対診」というシステムは存在していました。患者さんは他科医師に紹介したり紹介されたりする。医者は他の医者に相談したり相談されたりする。しかし、そんなところに「スキル」が必要なんでしょうか。
 コンサルテーション・スキルは、隠れた需要(hidden needs)です。
 たとえば、医師が内視鏡を行うスキルは、顕かな需要(apparent needs)です。誰の目にも明白な、医療において必要なスキルです。一方、コンサルテーション・スキルは顕かではない、隠れたスキルです。一見すると必要かどうかは明白ではないけれども、活用すると実は大いに役に立つ。そういったスキルです。前者のスキルを固定電話に、後者をiPhoneのような音楽を聴くツールや携帯電話にたとえてもよいかもしれません。それがなくても誰も困っていなかった。けれども、実際あるととても便利。その便利さに慣れてしまうと、もうなければやっていられない。携帯電話がない時代には誰も携帯電話がないことに不平を言ったりしなかったのですが、いま急に携帯が使えなくなったりしたら、大変な騒ぎになるでしょう。
 コンサルテーション・スキルも同様です。活用すれば、きっとあなたの診療レベルは上がり、診療の幅は広がり、あなたを見る他の医師の視線が変わってくるでしょう。そして、これに慣れてしまうと、コンサルテーション・スキルなしの診療なんて考えられなくなっていきます。
 さらなるレベルアップのために、コンサルテーション・スキルは「使える」技術です。そして、未来においてはそれは医師にとっての「必須のスキル」となるでしょう。年前はパソコンが使えることは医師にとって必須のスキルではありませんでした。いまやパソコンなしで医師が仕事をするのはとても困難です。超音波も現在は医師すべてが習得している技術ではありませんが、将来は聴診器並みに当たり前のスキルになるかもしれません(たぶん、なるでしょう)。医師に必要なスキルは時間とともに変わっていくのです。
 コンサルテーション・スキルは、おおざっぱに言うとコミュニケーションのスキルです。人間関係をさらに豊かにするスキルです。それでいて、単なる「人当たりのよさ」だけを目的にしたスキルではありません。短期的、長期的に他科の医師との人間関係を保ちつつも、あなたが発するメッセージを実行し、相手を説得し、あなたに得心するようにし向けるスキルです。単に「ナイスな人」として振る舞う技術ではなく、あなたの目指すゴールに確実に向かうよう根回しする、戦略的なスキルです。医療環境をよりエキサイティングなものにし、お互いのレベルアップに役立ち、病院が退屈なルーチンワークの場ではなく、毎日ときめくような新しい知的環境になることを目論んだ、勇気を与えるスキルです。困っている医師や困難に立ち向かっている医師に救いをもたらす、安寧を提供するスキルです。
 さあ、ひと味違う専門医を目指して、あなたも明日から役に立つコンサルテーション・スキルをマスターしてみませんか。

2020年7月
岩田健太郎

 岩田健太郎先生といえば、神戸大学病院の感染症内科教授という肩書きもさることながら、2020年2月に豪華客船ダイヤモンド・プリンセス内での新型コロナウイルス感染症の対応を批判する動画をYouTubeに掲載したこと(後に削除)で、感染症の専門家としての認知度を一気にあげたことは申すまでもない。この方法やその内容の是非、そもそもダイヤモンド・プリンセス内に入り込むまでの経緯に関してはさまざまな意見がマスコミやソーシャルネットワークで噴出した。しかし、2020年7月に刊行された本書を読めば、あの行動について直接触れられているわけではないが、一時の感情や義憤に流されたわけではなく、最大限の効果を出すために周到に準備したうえでの対応であったことをうかがい知ることができる。
 沖縄県立中部病院、コロンビア大学セントルークス・ルーズベルト病院、アルバート・アインシュタイン大学ベス・イスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院、そして現在の神戸大学病院での経験が彼の医師としての行動の礎となっているのであろうが、何人にもたどることのできないこの経験から生まれる彼の哲学を本書ではうかがい知ることが可能である。
 10年前の第1版の内容が古臭く、刷新が必要であるから第2版の本書が登場したと記されているが、単にコンサルテーション・スキルにとどまることなく、リーダーシップ、処世術、トラブルシューティング法、若手教育・対処法などが余すところなく記載されている。しかも、本書であげられている具体例はほぼ医療現場でのやりとりであるため、医療従事者、特に臨床を経験したことがある医師にとってはなじみ深い内容であることは申すまでもない。指導者のみでなく、今後多くの困難をくぐり抜けていかなければならない若手医師にとっても指南書となるであろう。
 500ページを超える分量とコンサルテーション・スキルというタイトルは、本書に手を伸ばすことを躊躇させる。しかし、決して堅苦しい内容ではないので、気の向くときに、時間がある際に1セクションずつ読みすすめ、自省の糧とすることが私のおすすめの読み方である。

臨床雑誌外科83巻3号(2021年3月号)より転載
評者●東海大学消化器外科教授 山本聖一郎


 岩田健太郎(著)、『コンサルテーション・スキルVer.2』を読んだ。期待どおり、岩田節が炸裂している。知らないことがたくさんあった。「勉強になった」といいたいところであるが、おそらく岩田さんはそのような感想は求めていないであろう。本書を読んだ後の手ごたえが「勉強になった」では少しずれていることを、筆者自身理解している。
 岩田さんは感染症内科の専門家である。臨床の現場では、コンサルタント(コンサルトを受けて答える人)としての仕事が多いであろう。そして本書は、コンサルタントの立場から、そのスキルについて解説した内容である。要するに日常臨床のpracticeにおいて、クセが強い他科の医師からコンサルトを受けたときに、場面と状況によってどのように答えていくべきかを、詳細に文章に起こそうと試みた本である。スキルを文章にするのだから、かなり困難なミッションであるといえるであろう。読み進めるにつれ、岩田さんが「これで読者に理解してもらえるだろうか?」と思いながら書いているのが随所で伝わってきた。でも大丈夫、岩田さん、試みは見事に成功している。
 内容は、臨床の判例に沿ってスキルを詳しく解説したものである。テクニックではなくスキルである。この違いを日本語で正しく説明することができるであろうか。まずスキルという概念の正しい理解からスタートすべきであろう。内村航平が行うD難度の鉄棒技はスキルではない。オリンピックで史上初の総合2連覇を達成するために、彼が長い年月をかけて獲得した総合的な能力がスキル・である。読者が本書から恩恵を受けるためには、内容を深く読み取るスキルが必要、ということになる。本書は、岩田さんが長い時間をかけてどのようにコンサルタントとしてのスキルを獲得したのかがよく反映されている。つまり、「たくさん苦労したのだろうな」ということがよくわかる。そして岩田さんは、外科医のことがかなり嫌いである、ということもわかってしまった。本書を読破することで、岩田健太郎と同等のコンサルテーション・スキルが身につく、というわけではない。どういうことかというと、岩田さん風に例えると、イニエスタが著したサッカーの技術書を読んでもイニエスタと同じスキルが身につくわけではない、ということである。イニエスタの技術本を参考にして、長い年月をかけて試合や練習で繰り返し実技を重ねることでようやく獲得へとつながっていく、ということが実によく理解できる内容になっている。
 あらゆる臨床医はなるべく早い時期に本書を読んでおくべきである。全体としてはむずかしい学術書ではなく、“読み物”的なタッチである。自分中心の偏った考え方に陥ってしまう臨床医は多い。同じ事象を扱っていても、さまざまな立場から違う視点でとらえると見え方がまったくかわってくる。本人は自分が正しいと思い込んでいる。しかし、一人の人間が考えている範囲などきわめて小さい、ということを痛感させられる本書の内容であった。患者さんのためになるよき臨床医をめざすならば、今すぐに本書を読むべきである。そして、実臨床に活かして経験を積み重ねて、徐々に獲得していくよう努力を継続していくことが大切である、と本書は筆者に教えてくれた。
 言い忘れていたが、岩田さんと筆者は大学の同級生である。なのであえていうが、岩田さん、1ヵ所決定的に間違えている部分があるよ。350頁、10行目、「オペの天才、カリスマ的なゴッドハンドたる外科医がいます」とあるが、そのような外科医はおりません。気の遠くなるような、無駄にも思える努力をたくさん積み重ねて、やっとやっと少しだけオペをさせてもらえるスキルをなんとか身につけたということです、みんな。
 最後に。書評の体をなしているかわからないが、楽しく読ませていただいた。臨床医にとって大切なビジネススキルを確立するうえで大いに役立つ一冊といえよう。岩田さんが、低能な臨床医や傲慢な外科医に大いに忖度して丁寧に書いているのが印象的であった。各種メディアでいろいろ活躍している岩田さんであるが、まだまだ苦労は絶えそうにないなと思った。

胸部外科74巻2号(2021年2月号)より転載
評者●滋賀医科大学心臓血管外科教授 鈴木友彰

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