書籍

消化性潰瘍診療ガイドライン2020改訂第3版

編集 : 日本消化器病学会
ISBN : 978-4-524-22544-6
発行年月 : 2020年6月
判型 : B5
ページ数 : 226

在庫あり

定価3,850円(本体3,500円 + 税)


正誤表

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

日本消化器病学会編集による診療ガイドライン。Mindsの作成マニュアルに準拠し、臨床上の疑問をCQ(clinical question)、BQ(background question)、FRQ(future research question)に分けて記載。消化性潰瘍の疫学、出血性胃潰瘍/出血性十二指腸潰瘍/薬物性潰瘍/非H.pylori・非NSAIDs潰瘍/残胃潰瘍の治療や予防、H.pylori除菌治療、非除菌治療、外科的治療、穿孔・狭窄に対する内科的(保存的)治療等について、エビデンスに基づき現時点の標準的な指針を示す。

クエスチョン一覧
第1章 疫学
 BQ1-1 日本人の消化性潰瘍の有病率は減少しているか?
第2章 出血性胃潰瘍・出血性十二指腸潰瘍
(1)内視鏡的止血治療
 BQ2-1 出血性潰瘍に対する内視鏡的止血治療は有用か?
 BQ2-2 出血性潰瘍に対する内視鏡的止血治療法はどのような潰瘍を対象とするか?
 BQ2-3 出血性胃潰瘍に対する内視鏡的止血治療法の成績はどうか?
 BQ2-4 止血確認のための内視鏡検査(セカンド・ルック)は必要か?
(2)非内視鏡的止血治療
 BQ2-5 どのような場合に輸血が必要か?
 BQ2-6 再出血予防にCH.pylori除菌療法は有用か?
 CQ2-1 抗凝固薬・抗血小板薬服用中の出血性潰瘍に対して休薬は必要か?
 CQ2-2 interventional radiology(IVR)は有用か?
 CQ2-3 内視鏡的止血治療後に酸分泌抑制薬を用いる必要はあるか?
(3)出血性潰瘍の予防
 CQ2-4 抗血栓薬使用者の出血性潰瘍の予防にどのような薬剤を推奨するか?
第3章 H.pylori除菌治療
(1)初期治療
【胃潰瘍】
 BQ3-1 H.pylori除菌は胃潰瘍の治癒を促進するか?
 BQ3-2 H.pylori除菌前のCPPI投与は胃潰瘍の除菌率に影響を与えるか?
 BQ3-3 開放性(活動期)胃潰瘍に対してCH.pylori除菌治療後の潰瘍治療の追加は必要か?
【十二指腸潰瘍】
 BQ3-4 H.pylori除菌は十二指腸潰瘍の治癒を促進するか?
 BQ3-5 H.pylori除菌前のCPPI投与は十二指腸潰瘍の除菌率に影響を与えるか?
 BQ3-6 開放性(活動期)十二指腸潰瘍に対してCH.pylori除菌治療後の潰瘍治療の追加は必要か?
(2)一次除菌
 CQ3-1 一次除菌治療はどのようなレジメンを推奨するか?
(3)二次除菌
 CQ3-2 二次除菌治療はどのようなレジメンを推奨するか?
(4)三次除菌
 CQ3-3 三次除菌治療はどのようなレジメンを推奨するか?
(5)再発防止
 BQ3-7 H.pylori除菌療法は潰瘍再発を抑制するか?
 BQ3-8 除菌成功例に潰瘍再発予防治療は必要か?
 BQ3-9 除菌後のCH.pyloriの再陽性化率はどれほどか?
 BQ3-10 除菌後のCGERD発症は増加するか?
 BQ3-11 除菌後症例の上部消化管検査は必要か?
(6)除菌後潰瘍
 BQ3-12 除菌成功後における未治癒潰瘍の対策は何か?
 CQ3-4 除菌成功後における再発潰瘍にCPPIの長期投与は必要か?
第4章 非除菌治療
(1)初期治療
【胃潰瘍】
 BQ4-1 胃潰瘍に対する非除菌治療(初期治療)において,酸分泌抑制薬と防御因子増強薬の併用療法は有用か?
 CQ4-1 胃潰瘍に対する非除菌治療(初期治療)にどのような薬剤を推奨するか?
【十二指腸潰瘍】
 BQ4-2 十二指腸潰瘍に対する非除菌治療(初期治療)において,酸分泌抑制薬と防御因子増強薬の併用療法は有用か?
 CQ4-2 十二指腸潰瘍に対する非除菌治療(初期治療)にどのような薬剤を推奨するか?
(2)維持療法
【胃潰瘍】
 BQ4-3 胃潰瘍の非除菌治療において維持療法は必要か?
 BQ4-4 胃潰瘍に対する非除菌治療(維持療法)にどのような薬剤を推奨するか?
 BQ4-5 胃潰瘍に対する非除菌治療(維持療法)において,酸分泌抑制薬と防御因子増強薬の併用療法は有用か?
 BQ4-6 胃潰瘍に対する非除菌治療(維持療法)の期間はどのくらい必要か?
 BQ4-7 胃潰瘍に対する非除菌治療において,維持療法中に内視鏡検査は必要か?
【十二指腸潰瘍】
 BQ4-8 十二指腸潰瘍の非除菌治療において維持療法は必要か?
 BQ4-9 十二指腸潰瘍に対する非除菌治療(維持療法)にはどのような薬剤を推奨するか?
 BQ4-10 十二指腸潰瘍に対する非除菌治療(維持療法)において,酸分泌抑制薬と防御因子増強薬の併用療法は有用か?
 BQ4-11 十二指腸潰瘍に対する非除菌治療(維持療法)の期間はどのくらい必要か?
 BQ4-12 十二指腸潰瘍に対する非除菌治療において,維持療法中に内視鏡検査は必要か?
第5章 薬物性潰瘍
(1)NSAIDs潰瘍(低用量アスピリンを含む)
【疫学・病態】
 BQ5-1 NSAIDs服用者では,消化性潰瘍,上部消化管出血のリスクは高まるか?
 BQ5-2 NSAIDs潰瘍および消化管出血の発生頻度はどれほどか?
 BQ5-3 NSAIDs潰瘍の発生時期はいつか?
 BQ5-4 NSAIDsによる上部消化管傷害における症状は何か?
 BQ5-5 NSAIDs潰瘍はCH.pylori関連の潰瘍と発生部位,個数,深さが異なるか?
 BQ5-6 NSAIDs潰瘍とびらんの違いは何か?
 BQ5-7 NSAIDs潰瘍のリスク因子は何か?
 BQ5-8 NSAIDsの種類により潰瘍(出血)発生率に差があるか?
 BQ5-9 NSAIDsの投与量により潰瘍(出血)発生率に差があるか?
 BQ5-10 NSAIDsの経口投与と坐薬で潰瘍(出血)発生率に差があるか?
 BQ5-11 NSAIDsの単剤投与と多剤投与で潰瘍(出血)発生率に差があるか?
(2)非選択的NSAIDs潰瘍
【治療】
 BQ5-12 H.pylori除菌治療でCNSAIDs潰瘍の治癒率は高まるか?
 CQ5-1 NSAIDs潰瘍の治療はどのように行うべきか?
【予防】
 CQ5-2 NSAIDs投与患者でCH.pylori陽性の場合,潰瘍予防として除菌治療を推奨するか?
 CQ5-3 潰瘍既往歴がない患者におけるCNSAIDs潰瘍発生予防治療は有用か?
 CQ5-4 潰瘍既往歴,出血性潰瘍既往歴がある患者がCNSAIDsを服用する場合,再発予防はどうするか?
 CQ5-5 高用量NSAIDs,抗血栓薬,糖質ステロイド,ビスホスホネートの併用者,高齢者および重篤な合併症を有する患者において,NSAIDs潰瘍予防はどのように行うべきか?
(3)選択的NSAIDs(COX-2選択的阻害薬)潰瘍
 BQ5-13 NSAIDsは心血管イベントを増加させるか?
 CQ5-6 NSAIDs潰瘍発生予防にCCOX-2選択的阻害薬は有用か?
 CQ5-7 COX-2選択的阻害薬服用時に潰瘍発生予防治療は必要か?
(4)低用量アスピリン(LDA)潰瘍
【治療】
 CQ5-8 低用量アスピリン(LDA)潰瘍の治療はどのように行うべきか?
【予防】
 BQ5-14 低用量アスピリン(LDA)服用者では,消化性潰瘍発生率,有病率は高いか?
 BQ5-15 低用量アスピリン(LDA)服用者では,上部消化管出血リスク,頻度は高いか?
 BQ5-16 低用量アスピリン(LDA)服用者におけるCNSAIDs投与は潰瘍発生のリスクを上げるか?
 CQ5-9 低用量アスピリン(LDA)服用者ではどのような併用薬を用いれば,消化性潰瘍発生率,有病率が低くなるか?
 CQ5-10 低用量アスピリン(LDA)服用者ではどのような併用薬を用いれば,上部消化管出血発生率,有病率が低くなるか?
 CQ5-11 上部消化管出血既往歴がある患者が低用量アスピリン(LDA)を服用する場合,どのような併用薬を用いれば,再出血が少なくなるか?
 CQ5-12 潰瘍既往歴がある患者が低用量アスピリン(LDA)を服用する場合,どのように潰瘍再発を予防するか?
 CQ5-13 潰瘍既往歴がない患者が低用量アスピリン(LDA)を服用する場合,潰瘍発生予防策は必要か?
 CQ5-14 低用量アスピリン(LDA)服用者におけるCCOX-2選択的阻害薬は通常のCNSAIDsより潰瘍リスクを下げるか?
 CQ5-15 低用量アスピリン(LDA)服用者におけるCNSAIDs併用時のCPPIを推奨するか?
(5)その他の薬物
 BQ5-17 NSAIDs以外に潰瘍発生リスクを高める薬物は何か?
 BQ5-18 糖質ステロイド投与は消化性潰瘍発生(再発)のリスク因子か?
第6章 非H.pylori・非NSAIDs潰瘍
 BQ6-1 非H.pylori・非CNSAIDs潰瘍の頻度はどうか?
 BQ6-2 非H.pylori・非CNSAIDs潰瘍の原因や病態は何か?
 CQ6-1 非H.pylori・非CNSAIDs潰瘍の治療はどのように行うべきか?
 FRQ6-1 虚血性十二指腸潰瘍の治療法は何か?
第7章 残胃潰瘍
 CQ7-1 残胃潰瘍の治療法は何か?
第8章 外科的治療
(1)手術適応
 BQ8-1 消化性潰瘍穿孔の手術適応は何か?
 BQ8-2 消化性潰瘍出血の手術適応は何か?
(2)手術術式
 BQ8-3 消化性潰瘍穿孔に対する最適な手術術式は何か?
 BQ8-4 消化性潰瘍出血に対する最適な手術術式は何か?
 BQ8-5 消化性潰瘍による狭窄に対する手術術式は何か?
(3)術後維持療法
 CQ8-1 消化性潰瘍の術後に除菌療法を推奨するか?
9章 穿孔・狭窄に対する内科的(保存的)治療
(1)穿孔
 BQ9-1 穿孔に対する内科的治療の適応は何か?
 BQ9-2 穿孔に対する内科的治療はどのように行うべきか?
 BQ9-3 穿孔に対する内科的治療から外科的治療に移行するタイミングはいつか?
(2)狭窄
 BQ9-4 狭窄に対する内科的治療の適応は何か?
 BQ9-5 狭窄に対してどのような治療を選択すべきか?
巻末付図

刊行にあたって

 日本消化器病学会は、2005年に跡見裕理事長(当時)の発議によって、Evidence-Based Medicine(EBM)の手法にそったガイドラインの作成を行うことを決定し、3年余をかけて消化器疾患(胃食道逆流症(GERD)、消化性潰瘍、肝硬変、クローン病、胆石症、慢性膵炎)のガイドライン(第一次ガイドライン)を上梓した。ガイドライン委員会を積み重ね、文献検索範囲、文献採用基準、エビデンスレベル、推奨グレードなどEBM手法の統一性についての合意と、クリニカルクエスチョン(CQ)の設定など、基本的な枠組み設定のもと作成が行われた。ガイドライン作成における利益相反(Conflict of Interest:COI)を重要視し、EBM専門家から提案された基準に基づいてガイドライン委員のCOIを公開している。菅野健太郎理事長(当時)のリーダーシップのもとに学会をあげての事業として継続されたガイドライン作成は、先進的な取り組みであり、わが国の消化器診療の方向性を学会主導で示したものとして大きな価値があったと評価される。
 第一次ガイドラインに次いで、2014年に機能性ディスペプシア(FD)、過敏性腸症候群(IBS)大腸ポリープ、NAFLD/NASHの4疾患についても、診療ガイドライン(第二次ガイドライン)を刊行した。この2014年には、第一次ガイドラインも作成後5年が経過するため、先行6疾患のガイドラインの改訂作業も併せて行われた。改訂版では第二次ガイドライン作成と同様、国際的主流となっているGRADE(The Grading of Recommendations Assessment、Development and Evaluation)システムを取り入れている。
 そして、2019〜2021年には本学会の10ガイドラインが刊行後5年を超えることになるため、下瀬川徹理事長(当時)のもと、医学・医療の進歩を取り入れてこれら全てを改訂することとした。2017年8月の第1回ガイドライン委員会においては、10ガイドラインの改訂を決定するとともに、近年、治療法に進歩の認められる「慢性便秘症」も加え、合計11のガイドラインを本学会として発刊することとした。また、各ガイドラインのCQの数は20〜30程度とすること、CQのうち「すでに結論が明らかなもの」はbackground knowledgeとすること、「エビデンスが存在せず、今後の研究課題であるもの」はfuture research question(FRQ)とすることも確認された。
 2018年7月の同年第1回ガイドライン委員会において、11のガイドラインのうち、肝疾患を扱う肝硬変、NAFLD/NASHの2つについては日本肝臓学会との合同ガイドラインとして改訂することが承認された。前版ではいずれも日本肝臓学会は協力学会として発刊されたが、両学会合同であることが、よりエビデンスと信頼を強めるということで両学会にて合意されたものである。また、COI開示については、利益相反委員会が定める方針に基づき厳密に行うことも確認された。同年10月の委員会追補ではbackground knowledgeはbackground question(BQ)に名称変更し、BQ・CQ・FRQと3つのQuestion形式にすることが決められた。
 刊行間近の2019〜2020年には、日本医学会のガイドライン委員会COIに関する規定が改定されたのに伴い、本学会においても規定改定を行い、さらに厳密なCOI管理を行うこととした。また、これまでのガイドライン委員会が各ガイドライン作成委員長の集まりであったことを改め、ガイドライン統括委員会も組織された。これも、社会から信頼されるガイドラインを公表するために必須の変革であったと考える。
 最新のエビデンスを網羅した今回の改訂版は、前版に比べて内容的により充実し、記載の精度も高まっている。必ずや、わが国、そして世界の消化器病の臨床において大きな役割を果たすものと考えている。
 最後に、ガイドライン委員会担当理事として多大なご尽力をいただいた榎本信幸理事、佐々木裕利益相反担当理事、研究推進室長である三輪洋人副理事長、ならびに多くの時間と労力を惜しまず改訂作業を遂行された作成委員会ならびに評価委員会の諸先生、刊行にあたり丁寧なご支援をいただいた南江堂出版部の皆様に心より御礼を申し上げたい。

2020年4月
日本消化器病学会理事長
小池和彦

 『消化性潰瘍診療ガイドライン2020』が発刊された。改訂第3版となり、5年ぶりの改訂である。日本消化器病学会の編集で、日本消化管学会と日本消化器内視鏡学会が協力学会となっている。第2版も手元にあるが、第3版は214頁から226頁へと厚みを増している。わが国の消化性潰瘍の患者数は、ピロリ菌除菌治療の普及や薬物治療の進歩により急激に減少している。本冊子の「疫学」パートから参照すると、この30年間で胃潰瘍が1/4、十二指腸潰瘍はなんと1/10に減少している。消化性潰瘍の減少は近年行われる内視鏡検査で確かに実感できることと思われる。しかし、疫学的には変化がみられ、患者の年齢は高齢化し、潰瘍の成因はピロリ菌からNSAIDsやaspirinに移り、原因不明の潰瘍が増加している。
 本ガイドラインの完成には約1年半が費やされており、クリニカルクエスチョン(CQ)作成から最新の評価方法に基づいた手法が用いられている。CQについて検索された論文を評価し、CQごとに「ステートメント」「推奨の強さ」「エビデンスレベル」「解説」「文献」が作成されている。構成は前版の第2版を踏襲しているが、新たに加わった内容としては疫学、残胃潰瘍、出血性潰瘍の予防、虚血性十二指腸潰瘍の治療法がある。また、これまでに書物や講演に頻繁に引用されてきた「フローチャート」に関しては、治療に残胃潰瘍と特発性潰瘍が新しく加わり、新たにNSAIDs潰瘍予防とLDA潰瘍予防が加わっている。個人的には、特発性潰瘍や虚血性十二指腸潰瘍は興味のある分野でもあり、楽しく拝読させていただいた。特発性潰瘍の頻度は各国でばらつきはあるものの、世界では増加傾向にあり、わが国でも10%を超えてきている。ただ胃粘膜萎縮を伴わない特発性潰瘍は1.7%であり、ピロリ菌感染が関与している可能性を示唆している。参考文献に関しては、英文は2018年11月以降、和文は2019年1月以降に関して検索期間外であるが、重要なエビデンスはハンドサーチで得られており、ガイドラインとしては内容が新鮮なものとなっている。たとえば、保険適用外であるが、ピロリ菌の3次除菌についてもvonoprazanを用いたレジメンの解析が記載されており、参考になる部分である。
 近年、多くの疾患で診療ガイドラインが発行されている。しっかりとしたエビデンスに基づいた診療内容を提示しているので、一般的には診療を支援し得る書物となっている。しかし、盲目的に運用することのないように、また、日々進歩している医学に対応していくように、さらに個々の患者に適した治療を施すように、本ガイドライン作成委員長の佐藤貴一先生は述べておられる。第2版よりさらに充実した内容の第3版を皆様もぜひ一読していただきたい。

臨床雑誌内科127巻2号(2021年2月号)より転載
評者●大分大学医学部消化器内科 教授 村上和成

9784524225446