書籍

スリングエクササイズセラピー

レッドコードテクニック

: 中島雅美
ISBN : 978-4-524-22442-5
発行年月 : 2004年4月
判型 : B5
ページ数 : 164

在庫あり

定価3,780円(本体3,500円 + 税)

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

ロープと吊革を使って患者の動きをコントロールし、効果的に運動療法を行うことができるスリングエクササイズセラピーについて、その幅広い応用方法の基本的知識とテクニックを、手技の写真と平易な解説で経時的にまとめた実際書。応用範囲は、筋力増強運動/関節可動域運動/ストレッチング/固有受容感覚改善運動/牽引療法など14項目にわたる。

第1部 スリングエクササイズセラピーの歴史
 A.脊柱側弯症に対するスリングの歴史
 B.脊椎損傷に対するスリングの歴史
 C.日本におけるスリングエクササイズセラピーの歴史
 
第2部 スリングエクササイズセラピーの基本的概念
 A.スリングエクササイズセラピーの定義
 B.運動学的特徴
  (1)自重の免荷作用
  (2)振り子運動作用
  (3)基本的な名称と肢位
   a.基本的なスリングの名称
   b.基本肢位(NP)
   c.応用肢位
 C.目的と効果
 
第3部 スリングエクササイズセラピーの実際
 1.筋力増強運動
 2.筋持久力増強運動
 3.関節可動域運動
 4.関節モビライゼーション
 5.伸張運動(ストレッチング)
 6.固有受容感覚促通運動
 7.感覚―運動学習
 8.協調性回復運動
 9.全身調整運動
 10.呼吸循環機能改善運動
 11.ADL動作運動
 12.ファシリテーションテクニック
 13.全身ハンギング
 14.牽引療法

「スリングエクササイズセラピー(sling exercise therapy、SET)」は、スリングロープとスリングストラップを使用して患者の動きをコントロールし、効果的に筋力増強、ストレッチングなどの運動療法を行うことのできるPTテクニックである。
 スリングが矯正器具として歴史の舞台に登場するのはHippokratesの時代に遡るが、運動療法に使用されるようなってからはまだ日が浅い。1992年にノルウェーで「ノルディスクスリング」が開発され日本には1995年に紹介された。スリングの運動力学と臨床応用に興味を持った6人のPTがノルウェーで直接スリングの講義を受けたのが1997年8月のことである。新しいテクニックであるSETにはエビデンスがまだ不十分であったため、帰国後「スリングセラピー研究会」を立ち上げスリングの有用性と運動力学について研究が行われることになった。ノルウェーにおいても研究会が発足し、1999年に「Sling Exercise Therapy、SET」という正式名称が発表された。SETは21世紀に発展する新しいリハビリテーションテクニックとして開発されたが、本格的に世界中に発信されてからは、まだ5年足らずである。しかしこの5年間にSETはかなり発展し、ヨーロッパではノルウェー本国をはじめドイツ、イギリスでかなり広がり、アジアでは韓国、台湾にもSET研究会が発足している。また国際インストラクター制度も始まり、2003年末現在で50名の国際インストラクターが養成された。
 日本でSET研究会が発足して以降、現在までに6回の学術大会を開催し演題も毎回10編以上を数え、レクチャーやシンポジウムもノルウェーからSETインストラクターを招聘して行っている。学術大会へは毎年100名近くが参加するようになり、卒後間もない若いPTたちが多くなっている。また地区別の学会やジャーナルにもスリングに関する論文をいくつか見かけるようになった。しかしながら、テクニックとしては十分に理解されているとは言いがたい。これはSETに関する書籍が日本には一冊もないことが原因の一つである。SETへの関心が高まっているにも拘わらず、教科書がないためにPT養成校ではSETの講義がなく、臨床にでてからSETに関心を持ったPTがセミナーで学んでいるのが現状である。またもう一つの原因は、スリングロープの設定がわずらわしく感じられることであろう。SETはスリングロープを操作して運動療法を行わなくてはならないため、操作方法を知らない者が初めてSETの道具を見ると“操作がむずかしそう、わずらわしそう”と感じるらしい。しかしスリングロープの操作の基本さえ理解できればSETの設定は簡単である。設定方法さえ習得すれば患者自身がSETを用いてどんどん動き、積極的な自動運動を行えるようになり、しかもADLの自立が促進され 結果的にPTの労力は軽減されるようになる。在宅、自立、寝たきり予防を掲げている21世紀の日本の医療・介護においてSETはまさに時代の要請に合致するリハビリテーションテクニックである。
 本書は養成校の学生から臨床のPTまであらゆる層のPTが理解できるように、スリングの運動力学とSETの実際、具体的方法論について記述した。「第I部 SETの歴史」では、SETの発展を通覧し、「第II部 SETの基本的概念」では、スリングの長さ、位置、人体とスリングの関係について基本的な考え方に焦点をしぼってまとめた。また「第
III部 SETの実際」ではSETの目的別テクニックをスリングの設定手順に沿ってまとめた。この手順に沿ってスリング操作を行えば一人でもスリング設定できるように記述している。本書を用いてぜひSETにチャレンジしていただきたい。そして一人でも多くのPTがより良いテクニックを臨床の場で実施してくれることを切に願ってやまない。
 最後に、本書を執筆するに当たり協力をしていただいたノルウェーの Petter Planke 氏、Karl Rodland 氏、Gitle Kirkesola 氏、Vidar Vindal 氏、日本SET研究会の野口敦氏、原賢治氏、大島秀明氏、写真のモデルをしていただいたRPT神崎良子氏、中島晃徳君に心よりお礼申し上げます。
2004年3月
中島雅美
(一部改変)

整形外科医となって58年、大学の整形外科教授、リハビリテーション部長を退職して13年半になる筆者にとって、本書は活目すべきものである。

 九州大学整形外科に入局したころのスリング療法は、今ではどこも行っていないと思われるが、骨盤翼骨折に対して、ベッドにやぐらを組み、骨盤にカンバスをつけて吊り上げ整復を試みる方法、各種骨折整復のための牽引療法、先天性股関節脱臼の整復前処置としての牽引、脊椎骨折整復のための反張位キャンバス療法、Glisson, Crutchfield法による頚椎牽引が行われていた程度で、あとになって、Cotrel, 頭蓋輪牽引法など多少運動を加味したり、より強力な牽引療法が考案されてきた。本書を読ませてもらうと今まで筆者らが行ってきたこの方面の治療法はほんの一部でしかなかったことを痛感させられる。

 スリングエクササイズセラピー(SET)はスリングロープとスリングストラップを使用して患者の動きをコントロールし、効果的に筋力増強、ストレッチングなどの運動療法をはじめ各種整形外科疾患の治療法、とくに後療法に画期的な役割を演ずると思えるので整形外科医としては、本書は必読の書である。

 この方面の開発は1992年、ノルウェーに始まり、1995年に日本に紹介され、1997年、6人の理学療法士(PT)がノルウェーで直接スリングの講義を聞き、著者を含めた6人が中心となってスリング研究会がつくられたようである。1999年ノルウェーでスリングエクササイズセラピー(SET)という公式名称が発表され、各国がこれにならったようである。この分野に関する本は日本にはないのである。

 本法は設置法がかなり複雑であり、行っている病院での報告を聞くとそれが難点であるが、習熟すると患者自身がSETを用いてどんどん目的に合った治療が行えるのでPTの仕事が軽減されることになり、まさに一挙両得の手法であるとのことである。

 本法の基本概念は天井から懸垂されたロープの振り子運動作用とスリングの自重免荷を利用して治療および訓練を行う手技で、具体的には、
 1) 全身の多くの部分であらゆる肢位で懸垂可能、
 2) 身体の一部または全身を懸垂できる、
 3) 懸吊された部位を自他動的に繰り返し動かしうる、
 4) スリングロープによる免荷、牽引、圧縮作用を利用することができる
となっている。

 急性期から慢性期まで他動運動から抵抗運動まで可能で、さらにリラクゼーション効果も期待できる。また開放性運動力学的連鎖(OKC:open kinetic chain)運動、閉鎖性運動力学的連鎖(CKC:closes kinetic chain)運動のどちらの運動でも設定できるという特徴を有している。
 第III部「スリングエクササイズセラピーの実際」には、1筋力増強運動、2 筋持久力増強運動、3 関節可動域運動、4 関節モビライゼーション、5 伸張運動(ストレッチング)、6 固有受容感覚促進運動、7 感覚──運動学習、8 協調性回復運動、9 全身調整運動、10 呼吸循環機能改善運動、11 ADL動作運動、12 ファシリ
テーションテクニック、13 全身ハンギング、14 牽引療法に分けて、各項目につき使用器具、患者の基本的ハンギング肢位、やり方、実施時の注意事項にいたるまで図入りでだれにでもわかるように記載されている。本書は、患者のリハビリテーションの方面からの回復に大いに貢献するであろうと確信される本で、整形外科医必読の書である。

評者● 福岡大学名誉教授 高岸直人
臨床雑誌整形外科55巻12号(2004年11月号)より転載